第44話 VS咲先輩

(くっ、流石に速いな)

俺は最初のカーブに入る前に、なんとか咲先輩を捉える。

しかし、カーブにかかる時、俺は少し減速してしまい、少し差が空いてしまう。

(しまった)

流石は陸上部のキャプテンだ。カーブの曲がり方が上手い。

そして、コースは直線に入る。

(いまだ!)

俺は全速力で走る。

周りの景色が一瞬で視界の後ろへ行く。

(ああ..こんなに全力で走ったのはいつぶりだろうか...)

今の俺は勝負などどうでもいい、と思えるほどに気分が爽快だった。

もう2年は抜かしただろうか、咲先輩は?

もうそんなことはどうでもいい

俺はそのままゴールまで走った。

ゴールにあるはずのゴールテープはない。

俺は


負けたのだった。


「はぁ..はぁ...」

俺はその場に座り込む。

結果は2位で1位はやはり、咲先輩だったようだ。


「ふふ、私の勝ちだね!」


咲先輩が俺に近づいて、ピースをしながら言う。


「はは、流石ですね」


勝負には負けてしまったが、俺は久々に走り、気持ちが良かった。


「やった、やっと勝った..」


咲先輩は喜びに震えているようだった。


「やっと?戦ったことありました?」


俺は咲先輩が発した、やっと、という言葉が妙に引っかかった。


「ふーん、覚えてないか」


俺は少し記憶を辿ってみるが、全く思い出せない。


「これ、覚えてるかな?」


咲先輩はそう言って、1つの紙切れをポケットから出す。


「これ..は..」


俺はその紙に見覚えがあった。

そこには、俺が小学生の時の陸上短距離大会の結果があった。

俺はそれの1位の欄を見る。


1位:神楽雅


そこにはなんと、俺の名前が記載されていたのだった。


「こんなものよく見つけてきましたね」


これは10年ほど前のものだ。

それを咲先輩は、かなり綺麗な状態で持っていた。


「ここ!」


咲先輩はそう言って、2位の欄を指差す。

するとそこには


2位:松川咲


なんと、2位の欄には咲先輩の名前が記載されていたのだった。


「その顔じゃホントに覚えてないんだね」


「まぁ...」


「そうだよね、所詮1位とその他、2位なんて眼中にないよね」


何が言いたいのだろうか

この結果は紛れもなく俺の小学生の時の結果だ。

俺が初めて出場した大会で、見事1位を取ることができた時のものだった。

あの頃の俺はスポーツ一筋で、恋愛など眼中にもなかった。


「わたしは...君が出てくる前までは..私が1位だったのに..」


咲先輩は少し唇を噛みながら、悔しそうに言う。

今更そんな昔話をされても、俺にはどうすることもできないのだが。


「でも今日は勝てたじゃないですか」


「そう!そうなんだよ!」


咲先輩は一気に元気を取り戻し、目を輝かせながら言う。

一見ただ一回負けた程度、だが咲先輩にとってはポッと出の俺に今まで守ってきた1位の座を奪われたことが、よほど悔しかったのだろう。


「あのときは本当にビックリしたよ、まさか私より速い人がいるなんて、しかも年下で..」


そう、あの頃の俺は本当に足が速かったのだ。

足だけではない、スポーツは大体のことができた。


そうだ、少し昔話をしようか...

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