第15話 林間学校1日目(午前)

「よし、一度寮に荷物を置いてこい、次は10時にここに集合だ」

と、学年主任が言う。

新幹線を降り、俺たちは寮の前に着いた。

「じゃあ、後で」

と、俺は遥たちに言う。

「うん!後でね」

「では、雅くん、また後で」

俺たちは男子寮に向かい、女子は女子寮へと向かう。

「はぁ、次集合まであと30分くらいあるなぁ」

と、誠司が言う。

「そうだな、それまで暇になるな..遥に会いに行こうかな..」

「けっ、いいよなぁ彼女持ちってのはよぉ」

「ん?お前モテるだろ?」

そう、誠司は意外にもモテるのだ、しかし、なかなか長続きしないようなのだ。

「でも、なーんか長続きしなくてよぉ、はぁどうしたもんかねぇ..」

と嘆いている。

「あ、悪いじゃあ行ってくるわ」

俺は遥に送ったメッセージに返信が来たので、俺は遥の元へ行く事にする。

「ああ、楽しんでこいよ」

と、誠司は苛立ち混じりに言う。

「まぁあと30分もないけどな」


「ここら辺か?」

俺は遥との待ち合わせ場所まで来た。

しかし、遥の姿が見当たらないのだ。

「まだ来てないのか?」

と、俺が周辺を歩いていると

「いいじゃん、ちょっとだけ、な?」

「あの..待ち合わせがあるので..」

そんな会話が聞こえる。

1つは遥の声だ。

俺はそこへ気づかれない様に近寄る。

(うわっやっぱナンパかよ)

見ると遥が数人のチャラそうな男達にナンパをされていた。

(うちの制服じゃないな..て事はもう一つの学校の奴らか..)

そんな事を考えていると、1人の男が

「おら、どうせ待ち合わせなんてしてねぇんだろ?」

と、いい遥の肩を掴んだ。

(まずい)

俺はそこへ近づいていき、

「よお、遥こんな所にいたのか!」

と、あたかも今来た風に見せ遥の側まで行く。

「み、雅...ごめんね..」

と、急に遥が謝りだす。

「あの、この子、俺の連れなんで..」

「は?それがなに?」

雅が早く帰れと促したがチャラ男達は引く気配がない。

「遥..」

と、雅が小声で呼ぶ。

「な、何..?」

「俺が時間を稼ぐから先に逃げろ」

「え?でも..」

「いいな?」

「..うん」

そのまま、俺は遥の肩を掴んでいる手を払い遥を逃す。

「あっ、くそっ」

チャラ男達はすぐ後を追おうとするがそこに雅が立ち塞がる。

「あ?なんだてめぇ、邪魔だよ」

と、言い拳を振るってくる。

ここで殴ると何かしら問題が発生するかもしれないな...

何しろ、まだ相手が、どんなものを隠しているかわかったもんじゃない、その状況で戦うのは一歩間違うと謹慎をくらう程度ではないかもしれない。

なので、雅はそれを交わし、そいつの目の前に両手を突き出して掌を合わせて叩く。

「っ⁉︎」

いわゆる猫だましと言うやつだ、そして、チャラ男が怯んだ隙に雅は遥が逃げていった方へ駆け出して行く。


「まったく、最近の男は血の気が盛んだな...」

と、呟きながら、俺は遥が逃げたであろう女子寮の前までくる。

「み、雅...」

すると、寮の陰から遥が出てくる。

「大丈夫だったか?」

と、雅が遥に聞く。

「うん..雅が守ってくれたから..」

「そうか、よかった」

「うん..ありがと...」

と言いながら、遥が俺に抱きついてくる。

「遥?まだ怖いのか?」

「ううん、ただ...こうしてたいな」

遥は少し顔を紅潮させながら言う。

(可愛いなぁ)

しばらくすると、寮から何人かの人集りが出てくる。

「はい!じゃあ終わり!集合場所行こっか!」

と、遥が言う。

「そうだな、もう少ししてたかったけど..」

「また出来るって!ね?」

遥は笑顔で言ってくる。

「そうだな、行こうか」

「うん!」


集合場所に着いた俺たちはそれぞれ班で並んだ。

「さて、今回一緒にこの林間学校を乗り切る、西流学校です、よろしくお願いします」

と、西流学校の教師らしき人が言う。

見ると、さっきのチャラ男達も西流学校の生徒の様だ。

「さて、ここからは自由行動にするが、1時までには山を登って来いよ!」

と、言われ俺たちは解散する。


「さて、特に何かあるわけでもないし...山登るか?」

と、俺が遥達に聞く。

「うーん、そうだね、のんびり登ろうよ!」

「そうですね、登りましょう!」

と、遥と美央が言う。

「雅くん、手を繋いでもらえませんか?」

と、美央が聞いてくる。

「はぁ?雅は私と繋ぐから!ね?」

すると、遥も俺と手を繋ごうとする。

「えっと..」

「ちっ」

俺が困っていると誠司が舌打ちをする。

「あの、山は危ないので私と繋いでください!」

「私だって危ないわよ!!」

いや...危ないとか言うけど...

「ここってそこまで高くないだろ...」

そう、この山はしっかり舗装されており、山もそこまで高くないのだ。

「そ、そう言うことじゃないじゃん...」

と、遥が俯きがちに言う。

「もう、雅くんのバカ...」

と、美央も拗ねている様に見える。

「ちっ」

そして、誠司はまたもや舌打ちをしている。

「?」


「あ〜..疲れたー」

と、遥は言う。

「おいおい、まだ半分くらいだぞ」

「雅は体力ありすぎ..」

遥はそう言って、その場に座り込んでしまった。

「たくっ、リュック持つよ」

と、俺は遥のリュックを持ってやる。

「ありがと〜」

「美央はまだいけるか?」

と、俺が聞く。

「はい、私はまだいけます」

「そうか..」

と、言いながら俺は行こうとする。

「おい、なんで俺には聞いてくれないんだよ!」

と、誠司が怒ったように言う。

「はぁ、別にお前はこの程度で疲れないだろ?」

誠司はモテる上に運動も得意だ、なのでこの程度では全く疲れないはずだ。

「まぁそうだけどよ」

「じゃあもう行くぞ」

と、俺は言う。

とにかく早く山を登りたい..さっきから誰かにつけられているような気配がするのだ...



「はぁ、やっと着いた〜疲れた〜」

と、遥は近くのベンチに座り込む。

「おつかれ」

俺は遥の隣に座る。

「雅くんもお疲れ様です!」

と、美央も俺の横に座る。

「ああ」

「おお、一番に着いたのはお前らか、まだ時間もあるし、それまで、時間潰しでもしてきていいぞ」

と、近くの教師に言われる。

「はい、分かりました」

美央が応える。

「でも、どこに行こうか?」

と、俺が皆んなに聞く。

「んーそんなに行くとこないし、ここでのんびりしてたいなぁ」

と、遥は言う。

「そうだな」

「では、昨日楽しみであまり眠れなかったので少し仮眠をとりたいです」

と、美央が言う。

「ん?ああわかった、時間が経てば起こすよ」

「はい、お願いします」

と、言いながら、美央は俺の膝の上に頭を乗せてくる。

「お、おい⁉︎何やってんの⁉︎」

と、俺が焦る。

「仮眠をとってます」

「いや..そんな事言ったって...」

「ちょっと何やってんのよ!!」

と、遥は怒っている。

「ふわぁ、ですから膝枕です」

と、美央は欠伸をしながら言う。

「あんた!すぐにどきなさいよ!」

遥は今にも、掴みかかりそうな勢いだ。

「い、一旦落ち着こうぜ、な?」

「雅までこいつの味方するの?」

と、遥は少し悲しそうに言う。

「いや、そういうわけじゃないよ」

「じゃあなんで...」

少しずつ遥の顔がくもってゆく。

「いや、えっと..そ、そうだ!」

俺はそう言って、遥を抱き寄せキスをする。

「ふぇ⁉︎こ、こんな所で...」

遥は顔を真っ赤にしながら周囲を確認する。

幸い、周りには誠司しかいなかった。

誠司はこっちを睨みながらどこかに行ってしまった。

「み、みや..び?」

遥は顔を赤らめている。

「ん?」

「その..もう一回...してよ..」

遥は恥ずかしがりながら、そんな事を言ってくる。

「ああ..」

俺はもう一度、遥と唇を交わす。

「む〜ずるいです...」

と、唸りながら美央はこっちを見てくる。

しかし、相当眠たかったのか、しばらくすると、眠りについた。

「ねぇ雅」

「ん?」

「今日の夜、女子寮に来てよ」

「え⁉︎」

遥の言った事に俺は思わず大声をあげる。

「な、なんで?」

と、俺が聞く。

「会いたいから...」

遥は少し顔を背けながら言う。

「そう...か..」

「来れる..?」

「まぁ抜けれたら連絡するよ..」

「そっか」

と言いながら、遥は俺に身を預けてくる。

「...うん」

沢山の木に囲まれ、鳥達が囀っているのも聞こえる。

しかし、


その木の陰に人がいるのを俺は見逃さない。


(あれは..遥をナンパしてた連中か..)

そう、さっきからの気配は遥をナンパしたチャラ男達だった。

(また遥を狙っているのか..?それとも...)

俺は、すやすや寝息を立てている美央の顔を見る。


時間になった俺たちは班で飯盒炊爨(はんごうすいさん)をした。

「じゃあ、食べようか」

俺が皆んなに言う。

「うん!食べよう!」

「「いただきます!!」」

俺は早速ご飯を口に運ぶ。

「おお、美味いな」

「あの、雅くん..」

俺が味わっていると美央が何か言おうとする。

「ん?どうした?」

「あの...あ〜ん」

と言い、美央は顔を赤くして、箸を俺の方へ向けてくる。

すると、男子達の視線が一気に俺に集中する。

「っ⁉︎」

雅も男だ、美央ほどの美少女に、こんな事されては戸惑ってしまう。

「あ〜ん」

「こ、こら美央!!何してんのよ!」

すると、遥は怒って美央を止める。

「何って、いわゆるあ〜んと言うものですが?」

美央は当たり前の様に言う。

「はぁ⁉︎そういうのは私がやるからアンタはいいの!!ほら雅!あ〜ん」

遥はそう言って、自分の箸を雅の口元に持っていく。

すると、今度は西流学校の男子達の視線も感じる。

「えと、あ〜ん」

雅は遥のくれたものを食べる。

「むぅ、雅くん私も..」

美央はどこか寂しそうな目で、雅を見つめてくる。

「あ、あ〜ん」

雅はつい美央のも食べる。

「あ!雅!なんでこいつのも食べるの!!」

遥はそう言いながら、雅の隣へと来る。

「ほら、私なんて口移しで食べさせてあげるもんね!」

と、遥は口に食べ物を含み、そのまま雅の口に移そうとしてくる。

「おいおい⁉︎それはやりすぎだろ⁉︎」

と、遥の肩に手を置き、留まらせる。

(さっきから視線が凄いのに更に悪化したぞ⁉︎)

「もう..手離してよぉ」

と言いながら、遥は少し体の力を抜く。

「ぐぬぬ...」

その途端、唸りながら美央が突然近づいてくる。

「え?」

すると、美央は俺の手を掴み、

「わ、私なんて!...この体に盛り付けして食べていいですよ!!!」

と、言い自分の胸に俺の手を押し付ける。

柔らかいが確かな弾力があり、それはそれは...

「...」

「...」

美央は真っ赤な顔をしながら俺を涙目で見てくる。

「..何言ってんの?」

「な..何って..にょ、女体盛りしていいって言ってます...」

美央は自分で言ってて恥ずかしくなっているのか、だんだん声が小さくなっていってる。

「いや..意味わかんないんだが..」

いくらなんでもぶっ飛びすぎだろ!

「もぉ〜..忘れて下さい...」

美央はそのまま俯く。


「はぁ、なんか午前中だけでかなり疲れたぜ」

俺がそんな事を呟く。

「そりゃああんな美少女達に迫られたらなあ‼︎」

どうやら誠司は怒っている様だ。

「悪かったって」

「何がだよ!」

「あはは、ところでお前午後からどうすんだ?」

午後からは、完全に自由に遊んでいいらしいのだ。

「んーと、そうだな暇だし西流学校の子でもナンパしに行くかな」

「お前..そういうとこだぞ..」

そう、こいつの長続きしない理由の1つは女癖が悪い所だ。

(普段は真面目なんだけどなぁ...)

「ははっそうかもな」

と、言い合いながら俺たちは別れた。

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