第12話 遥の姉
「やっぱり、だめだ」
俺は美央とのお風呂を断る。
「お願いします!!」
と、美央は食い下がらない。
「だ、だめだってば!」
「お願いします!」
と、永遠に終わらなさそうな会話をしていると
「だめに決まってんでしょ!!!」
と、大きな声を上げて遥が風呂場に入ってきた。
おそらく、キッチンにまで俺たちの会話が聞こえていたのだろう。
遥は俺を連れて風呂場から出ていった。
そして、リビングまで戻ると
「もう!雅は色仕掛けに弱すぎ!!」
と、少し怒った様に言う。
「でも、ちゃんと断ったぞ?」
「断ったらさっさとお風呂場から出ないと」
「そう..か?」
「そう!」
と、遥は言う。
「わかった」
「うん、じゃあもう少ししたらご飯できるから待っててね」
と、遥は笑顔になって言った。
あれから俺と美央は普通に接していた。
というか俺の気にしすぎだろう、おそらく美央の中では、好意を持っている人間をお風呂に誘うのは、別に気にする事じゃないのかもしれない。
翌日、俺たちが学校につくと、俺たちの横のクラスに人集りができていた。
「なんだあれ?」
俺が、少し身を乗り出して、中を覗く。
そこには、なんと、平塚がいた。しかも髪は黒色で制服もしっかり着こなしている。
(まさかあんな事になってるなんてな)
朝から意外なものを見てしまった。
俺は自分の席に着くと、
「よお、雅!」
と、声をかけられる。
あれ?俺に男友達いたっけ?
俺がそちらを振り向くと、見覚えのある顔があった。
「あれ?誠司じゃないか?」
と、俺は中学の時の友達の氷川誠司(ひかわせいじ)に話しかける。
「というか、いたんだな」
「影薄くて悪かったな!」
と、不満そうに言う。
一応、説明しておくと、こいつは俺の中学の時の友達で、チャラい感じがするが、案外普通の男子であり、俺の数少ない友達の1人である。
「ていうか、なんで話かけて来なかったんだ?」
と、俺が聞くと、
「だってよ、お前の周り女の子ばっかだったろ?話しかけづらいんだよ」
と、言う。
「ああ、なるほどな」
と、俺たちが話していると
「あれ?氷川くんじゃん!」
と、遥も誠司に気づき近づいて来る。
「よお、遥ちゃん!」
俺たちが話していると授業が始まったので俺たちは席に着いた。
昼休み、俺と遥と美央は屋上でご飯を食べる事にした。
そして、俺たちが、ご飯を食べ始めようと、弁当を広げていると、
「よっ!英雄くん!」
と、声がする。
俺が声のする方を見てみると、そこには、金髪でピアスを開けていて、いかにもギャルって感じの女の子が立っていた。
「..えっと、あなたは?」
と、遥がその子に聞く。
「ん?あたし?あたしは松川咲(まつかわさき)よろしく!」
と、咲と名乗った女の子は言う。
「あの、英雄って?」
と、俺が聞く。
すると、咲は笑顔を浮かべながら、
「私、見てたんだよね」
と、言う。
(見てた?)
「平塚くんとのことだよ」
と、咲は俺が何も言っていないのに、そう言った。
「ああ、あれのことか」
どうやら、俺と平塚が屋上でやり合った事を言っているらしい。まさか見られてたとは..
「あ、別に脅そうとしてるわけじゃないからね?...ただ..」
と言って少し押し黙る。
「ただ?」
「放課後ちょっときてくんない?」
と、言う。
「俺が?」
「うん!」
「これですか?」
「うん!悪いね、手伝ってもらっちゃって」
放課後、俺は生徒会の仕事を手伝っていた。
咲は生徒会副会長だそうだ。
ちなみに、咲は三年生らしいので先輩である。てっきり同級生かと思っていた。
ちなみに今は咲先輩に言われ、荷物運びをさせられている。
「いや〜悪いね〜手伝ってもらっちゃって」
「はぁ、別に構いませんが」
「優しいねぇ〜」
「でもなんで俺なんですか?」
「ん〜力ありそうだったから?」
「男だったら大体あるでしょ...」
俺は生徒会室に荷物を運び終わる。
「ありがとうね!」
と、咲が笑顔で言ってくる
「はい」
「ね、ちょっとお茶しようよ」
「お茶?」
「お礼も兼ねてさ、ね?」
うーん、お茶かぁ、
美央と遥は先に帰ったので、お茶だけ貰おうかな。
「じゃあ、ちょっとだけ..」
「うん!」
咲はそう言うと、カップを持ってきて、紅茶を入れてくれる。
俺はそれを一口飲む。
美味い。
「黙って飲むのもなんだしさ、なんか喋ろうよ!」
と、咲が話題を振る。
「話?」
と、雅が聞く。
「うん!」
(話か...)
「天気いいですね!」
と、雅が笑顔で言う。
「いやそれ話題ない時に使うやつ!!!」
と、大声で言われた。
「もーみやびっちは会話下手だなぁ」
そりゃ伊達に隠キャやってませんから...
「みやびっち?」
「うん、雅くんだからみやびっち」
そのあだ名はビッチみたいでやめて欲しいが...
「でさ、聞きたいんだけどみやびっちって超強かったじゃん?」
と、咲が聞く。
「そ、そうすか?」
「うん!そうだよ!」
「まあ俺が強いのは親のおかげですよ」
「へぇーなんかやってたの?」
「まぁ、ちょっと武道を...」
「へぇ、部活とかは?入んないの?」
俺は部活に入る気はない。
「んーっと今は何も...」
「じゃあ空手部とか入んないの?うち結構強いよ?」
と、咲が勧めてくる。
「今のところは入る気無いですね」
と、俺は断る。
「そっかー残念」
咲先輩と別れた俺は、そのまま家に帰った。
「ただいま」
と、俺が言う。
「ちょっとお姉ちゃん!早く出てって!!」
と、中から遥の叫ぶ声が聞こえる。
(なんだ?)
中に入ると、そこにはどことなく雰囲気が遥に似ているが、違うところといえば、まず綺麗な長い金髪だ、そして、なんといっても胸だ、遥は綺麗に平らになっているのに、その女性は服の上からでもわかるくらい大きい。
(この人は...)
「お久しぶりです、春菜さん!」
と、俺が挨拶をする。
すると、俺に気づいたその女性はこっちを向いて
「お!雅じゃん!久しぶりだねぇ」
と、言う。
「ちょっ、雅帰ってくるの早くない⁉︎」
と、遥は戸惑っている様だ。
「悪い、俺、帰ってきちゃまずかったか?」
と、雅が聞く。
「まずくはないけどさぁ...その..こっちで先に話つけたかったかなぁ..」
と、遥は言う。
「いいじゃん!雅とも話したいしさ!」
と、その女性が言う。
「まあ..とりあえず座って下さい」
と、俺が座るのを促す。
俺と春菜さんは対面に座る。
「では、改めて春菜さん、お久しぶりです」
この人は、氷室春菜(ひむろはるな)そう、遥の姉であり、確か大学生だったと思う。俺は小さい頃から春菜と遥と一緒によく遊んでいた。
「雅?なんでそんな他人行儀なの?」
と、春菜が聞いてくる。
「え?」
「だって昔は、私のことも呼び捨てだったし、敬語なんて使ってなかったじゃん!」
「でもお互い、いい歳ですし、流石に..」
「そんなの関係ないでしょ!!私は他人行儀が嫌なの!!」
と、春菜は興奮して椅子から、勢いよく立ち上がり言う。
(反動で揺れてるんですが...)
昔は遥と大差なかったんだけどな..
「分かりました。じゃあ敬語は..やめるよ?」
「うん!」
春菜は満足した様に言う。
「お茶どうぞ」
と、美央がお茶を持ってきてくれる。
「で、私がここにきた理由なんだけどさ」
と、春菜が言う。
「うん」
「うちの遥と付き合ってるんだよね?」
と、聞いてくる。
「はい、そうですけど..」
「じゃあなんで彼女と同棲してる家にこんな可愛い子がいるの⁉︎」
と、少し大きな声で言う。
(やっぱそのことか..)
「実は...」
俺は春菜に、美央が俺の許嫁であることなど色々説明した。
「ふんふん、なるほどなぁ〜」
すると、途端に春菜の目の色が変わる。
「っ⁉︎⁉︎」
すると、俺の体が一気に強ばる。
これだ..俺は昔からこの人には逆らえなかった。この人の目は心の奥深くまで、見透かされているような..そんな目だ..
「早く追い出して?」
と、春菜は美央が、目の前にいるにも関わらず、そんな事を言い出す。
「えっと..」
と、俺が戸惑っていると
「早く!」
と、急かしてくる。
「そ..それは..」
「出来ないの?なんで?浮気してんの?」
「い、いや..そう言うわけじゃ..」
「お姉ちゃん!!!」
と、遥が大声を出した。
すると、春菜の目の色が戻り、元の凛とした顔に戻る。
「な、何?遥ちゃん?」
春菜は少し焦っている様に言う。
「雅困ってんじゃん!」
「で、でも遥ちゃんが浮気されてるかもしれないし..」
と、声を小さくしながら春菜は言う。
「雅は私が一番だ、って言ってくれたから..あと、私たちは勝負してるの」
「勝負?」
「うん卒業までに雅が惚れたら、私が諦めるの、それで勝って、美央に雅を諦めさせるの」
「卒業までなの?」
「どういうこと?」
と、遥は聞き返す。
「だって卒業までに、万が一雅が惚れたとしても、また惚れさせたらいいじゃない」
と、春菜は言う。
「卒業までに惚れたら、身を引くの」
と、遥は少し悲しそうに言う。
「はい!今すぐそれ変更!」
と、春菜は言い出す。
「え?」
「だってそれ、遥ちゃんが不公平じゃない?だから卒業式の時にもし雅が、遥ちゃんを好きじゃなかったら、遥ちゃんが身を引けばいいと思うの!」
確かにそっちの方が公平かな?と、俺も思う、まあ彼女がいるのに許嫁がいること自体がおかしいが..
「いいです!そうしましょう!」
と、美央が反応を示す。
「遥ちゃんもいいよね?」
と、春菜は遥に聞く。
「う、うん、じゃあ..それで」
「よし!決まりね!」
と言うと春菜は椅子から立ち上がり玄関の方へ行く。
「もう帰るの?」
と、俺が聞く。
「うん!なんか満足したし」
と、言いドアノブに手を掛ける。
「あ!そうそう」
と言い、春菜は動きを止める。
「遥ちゃん私は貴方の味方だから困った時は頼ってね!」
と、言いながら家を出て行った。
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