第10話 雅VS平塚

「行くの?」

と、遥が心配そうに聞いてくる。

「うん」

俺は、午後の授業も終わり、放課後、平塚と約束した屋上に向かっていた。

教室を出ると、

「やぁやぁ二股くん」

と、茜が喋りかけてくる。

「どうかした?あと俺は雅だけど...」

「まぁそんな事いいから」

(よくないだろ...)

「で、何か用があるのか?」

と、俺が聞く。

「うん、恭弥のところに行くとこだったんでしょ?」

「ん、まあな」

恭弥とは、俺が今から屋上に会いに行く男の名前だ。

「気をつけた方がいいよ」

「ん?なんでだ?」

「恭弥の噂、聞いたことある?」

「噂?」

「やっぱり知らないんだね」

「ああ」

「恭弥は今まで、どんなに強いやつにも勝利してきてるよ」

「?」

雅が首を傾げる。

「恭弥はね、勝つまでやるんだよ」

「勝つまで?」

「うん、勝つまで、て、いっても相手は所詮ただの高校生。だから相手の良心に語りかけた感じかな?」

なるほど、相手が折れるのを待つのか。

「ありがとう、教えてくれて」

と雅がお礼を言う。

「あ、あと、私、中学から恭弥と一緒だけど恭弥、殴り合いするとき1人でしないよ」

と、茜が言う。

「どう言う事だ?」

「恭弥は1人じゃないって事」


茜と別れ、俺は屋上に続く扉の前まで来た。

「さて、行くか」

そして、扉を開けた。

「来たぞ、平塚」

俺は、そのまま前にいる平塚に近づく。

「お、やっと来たか」

平塚は笑いながら言う。

「お前だけじゃないんだな」

平塚の周りには、平塚だけでなくもう1人ガタイの良い奴がいる。

「ああ、コイツは俺の相棒のジョニーだ」

名前からしておそらくアメリカ人だろう。 「さて、やり合う前に一つ」

と、平塚が言う。

「なんだ?」

「俺が勝ったらお前の彼女に俺の女になってもらう」

「...は?」

「くっくっくっ、どうした?負けるのが怖くなったか?」

と、平塚が雅を煽る。

「別にいいさ、でも、俺が勝ったら何するんだ?」

と、雅が聞く。

「はっお前、勝つつもりなのか?くっくっまぁもしお前が勝ったら...そうだな今後、喧嘩を売られた時しか手をださねぇって誓ってやるよ」

「...本当だな?」

「ああ、でも勝てたらの話だけどな」

「さ、ジョニー早いとこ、この隠キャを潰してやってくれ」

と、恭弥が言う。

「お前は来ないのか?」

「はっお前なんかジョニー1人で十分なんだよ」

と、恭弥が言ったと同時にジョニーがその巨体で突っ込んで来る。

「はぁ!!」

そして、そのでかい腕を振り上げる。

しかし、俺には当たらず、ただ何もない所を、斬るだけだった。

(図体がでかいから動きを読むのは簡単だな...戦い慣れもしてなさそうだし)

「はっ‼︎」

そのまま、ジョニーが右足で、雅を蹴ろうとしてくるので、雅は右足が届かない左へ行き、そのまま

今度は雅がジョニーの腹に蹴りを入れる。

「ぐぁぁ」

と、叫んだが決定打にはならなかったのか、今度はそのでかい図体で突進してくる。

しかし、雅は、ジョニーの横に回り込み、そのまま、思い切り足を振り上げ、ジョニーの顔面に蹴りを入れた。

「はぐふっ」

と、唸りそのままジョニーは倒れ込んだ。

「ふぅ、あとはお前だけだぞ、平塚」

「へっ、自分から喧嘩売ってきただけはあるじゃねえか」

と、言いながら平塚は距離を詰めてくる。

「さぁ、楽しませてくれよ?」

と、平塚は不敵に笑う。

「ああ、さっさと終わらせよう」

俺は、そう言うと一直線に平塚の方へ、走り出す。

そのまま、蹴り上げる動作をしながら平塚の腹部に拳を叩き込む。

「ぐはぁっ」

「へへっ流石...ジョニーを倒しただけあるじゃねえか」

と、平塚が、若干引きつった笑みを浮かびながら言う。

「まだ動けるんだな」

平塚はかなり重い一撃をくらったはずだがまだ立っている。

「へっあの程度、一発くらった所でどうってことねぇよ」

「その割には顔が引きつってるが?」

雅は小さい頃から武道をやっていて、その実力は並大抵のモノではない。

しかも、今回は遥がかかっているので手を抜く気は全くない。

「くくく、そうかもな」

と、言いながら、平塚は右手で突こうとしてくる。

しかし、雅はそれをいとも簡単に受け止める。

「本命はこっちさ」

と、平塚が言いながら左足を、今度は、雅の腹部を蹴り上げようとする。

「ああ、知ってる」

雅は、平塚の左足を掴んで平塚の体制を崩しそこに蹴りを入れる。

「ぐはっ」

と、平塚は地面に倒れ込む。

「これで分かったか?お前と俺では力の差がありすぎる」

「へっ、そうかよっ」

と、言いながら平塚は身体を起こし、また向かってくる。

俺はその平塚の顔に予備動作なしで拳を入れる。

「へぶっ」

平塚は一度後ろによろけたが、また雅に向かってくる。

「もう諦めたらどうだ?」

と、雅は言うが、平塚はそれを無視してまた向かってくる。

しかし、平塚は既に瀕死の状態なので攻撃を避けるのは造作もない。

そして、平塚の腹部に蹴りを入れる。

「ぐぅ」

と、唸りながら倒れる。

「諦めろ、お前じゃ無理だ」

「クックックッ神楽、お前は俺の噂を聞いたことがあるか?」

「勝つまで殴り合うってやつか?」

「そうだ、俺はお前が折れるまでやるつもりだ」

と、笑いながら平塚は言う。

「お前は知らないみたいだな」

と、雅が言うと、平塚は首を傾げる。

「つまり...」

雅の目つきが鋭くなる。

「俺は、お前が今まで殴ってきたやつとは違う」

「っっ⁉︎」

雅に睨まれた平塚はまさに蛇に睨まれた蛙だった。

「どうする?」

と、雅は落ち着いた口調で言う。

平塚はしばらく黙ったあと

「クッ降参だ」

平塚がそう言うと雅は目つきを緩める。

「そうか」

と、雅は言い平塚に背中を向ける。

「そんな事しても意味なんてないぞ」

と、雅がまた振り向き、平塚の拳を受け止める。

すると、平塚の拳から力が抜けていく。

「へっこれもお見通しって訳かよ、クックッとんでもねぇバケモンだな」

「ふん、所詮素人って事だ、あと約束の事だが...」

「わーってるって、男の約束はちゃんと守るぜ、あんたの彼女にも手ぇださねぇ」

「そうか」

と、雅は呟き屋上から出る。

「神楽雅...か、ふんとんだバケモンじゃねぇか」

と、平塚はジョニーしかいない屋上でひとり笑うのであった。

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