第9話 雅の弱点

翌日、俺は遥と美央の3人で学校に登校した。

俺が学校に着いた途端、美央が話しかけてきた。

「雅くん、今日の体育では2人1組でするらしいですよ、一緒にどうですか?」

「ちょっと!あんた何言ってんの?」

と、遥が横から言う。

すると、

「遥さん、約束、忘れてませんか?」

「...わかったわよ」

「ふふっでは」

「あ、ああ」

そして、朝のホームルームと1限が終わった。

「もー!全然雅と話せないじゃん、ねぇ行かないで?」

と、遥が甘い声で聞いてくる。

「んーと、そうし...」

「さあ、雅くんこっちに行きましょう!」

と、美央に腕を掴まれ連れて行かれる。

「...」

男子から殺意のこもった視線を感じる。

「な、なあ美央ちょっとだけ離れてくれないか?流石に近すぎる様な...」

と、雅が言うと、なんと、美央は腕に胸を押し付けてきた。

「お、おい美央!」

「むぅ、なんですか?」

と、美央は首を傾げながら言う。

「いや、分かってるんだろ?その...視線が..」

と、雅が気まずそうに言う。

(そうだ!高城さんに助けを求めたら...)

と、思い俺は遥達と談笑している茜の方を見る。

しかし、ふいっと目を逸らされる。

(おいー、なんか妙に警戒されてるんだよな)

「私は周りの目は気にしませんよ」

と、美央がさっきの事に答える。

「い、いや、俺が気に...」

「美央ちゃん、横にいるやつ誰?」

と、俺の言葉を遮って、金髪のいかにもヤンキーみたいな男が教室の入り口から入ってきた。

(こいつはどこかで...)

「ああ、平塚くん、この人は神楽雅くんって言います」

「へぇーねえねえ、そんな事より俺と遊ばないか?」

(ん?平塚?)

「あぁー!!!」

と、雅が大声で叫ぶ。

「な、なんだよ急にでけぇ声出しやがって...ってお前どっかで見たと思ったらあの時の陰キャじゃねえか!」

「お前は...あの時、先生呼ばれたくらいで逃げてったやつじゃないか」

「はぁ⁉︎あの時の続き、ここでしてやろうか⁉︎あ?」

と、俺の胸ぐらを掴んでくる。

「おい!お前ら喧嘩か?」

と、言いながら先生が入ってくる。

2限の途中に、遥が小声で喋ってくる。

「ねぇ?雅、大丈夫なの?」

と、遥が心配そうに聞いてくる。

「ん?なにが?」

「いや、平塚の事!」

「んーああ、まあ大丈夫だろ?」

「平塚、中学時代かなりヤンチャしてたらしいよ、だから暴力でくるかもしれないじゃん」

「まあもしそうなったとしても、見た感じただの見掛け倒しで、喧嘩慣れしてないと思うぞ」

「いや、そういう問題⁉︎入学早々謹慎とかになっちゃうんじゃないの?」

「まぁ大丈夫だろ?」

「そうかなぁ」


そして、2限が終わった。

すると、美央が俺の横に立って、

「雅くん、自販機に飲み物を買いに行きたいので、着いてきてくれませんか?」

と、言ってきた。

「ん、ああ行こうか」

と、俺も立ち上がって、美央と一緒に行こうとすると、

「おい、さっきの続きしようぜ?」

と、俺の肩が掴まれる。

そちらを振り向くと、案の定、平塚恭弥がいた。

「はぁ、悪いが今から自販機に行くんだ」

「はっ、安心しろ今からおまえをボコるだけだからよ」

と、また俺の胸ぐらを掴んで来る。

「放課後...」

俺がぼそりと呟く。

「あ?なんだ?聞こえねえぞ?」

「放課後..屋上で相手してやる」

と、俺が口調を強くして言う。

「は?おもしれぇ、せいぜい放課後まで命乞いしてるんだな」


平塚と別れた俺は、自販機で飲み物を買う美央を待っていた。

「雅くんに何か買いましょうか?」

と、美央が飲み物を買いながら聞いてくる。

「いや、俺はいいよ」

「そうですか、ところでいいんですか?」

と、美央が聞いてくる。

「何がだ?」

「平塚くんの事です」

「ああ、俺は大丈夫だけど、美央はいつ知り合ったんだ?」

と、俺が聞く。

「丁度昨日知り合いました」

「へぇ大丈夫か?なんかされてないか?」

「はい、それと言って特には何も」

「そっか」

「はい」


次の時間は体育だ。

着替えた俺たちは校庭に出る。

「雅くん!一緒にしましょう!」

と、美央がかけよってくる。

美央は髪を纏めてポニーテールにしていた。

「ああ」

と、俺も同意する。

「その...雅くん..どうでしょうか?」

と、美央が聞いてくる。

おそらくポニーテールのことだろう。

「似合ってると思うぞ」

と、言うと美央はにっこりしながら

「ありがとうございます!」

そして、みんながいる場所に行くと

「じー...」

と、遥が恨みの篭った目でこっちを見てくる。

「...なんだよ」

と、俺が言うと

「むぅ〜!なんだよじゃないよ!!これって浮気だよね⁉︎ねぇ⁉︎」

と、強い口調で言ってくる。

「わ、悪い...」

「悪いじゃないよ‼︎ずっと美央と一緒にいてさぁ‼︎...私...寂しかったんだよ..?」

うっ...そんな目で見ないでくれよ。

「その代わり明日は休みだからデートしようね?」

「ああ」

「ところで大丈夫?」

と、遥が聞いてくる。

「何がだ?」

さっきも同じようなこと言われた気がするが...

「ほら、平塚のこと、ちょっと聞いてたけど、放課後、あいつと会うんだって?」

「まあな」

「無理はしないでよ」

「ああ、そういや遥は誰と組むんだ?」

「ん?友達だよ?」

「男?」

「んー?嫉妬してくれてんの?可愛いなぁ〜、安心してよ女の子だよ」

「そうかよかったよ」

「そっ...か」

と、少し赤くなりながら言う。

「可愛いな」

と、俺が言うと

「もぉ〜そう言うこと言わないでよぉ」

と、遥は顔を真っ赤にして言う。

すると

「さあ、行きましょう、雅くん」

と、美央が腕を引っ張ってくる。

「お、おう」

「よし、まずは準備運動だ」

と、体育の担当教師が言う。

「ペアと、柔軟をしておけ、以上!」

(やる気ないのかよ...)

「まぁ、やるか」

と、美央に言う。

「はい!」

美央は地面にお尻をつけて長座体前屈をする時のポーズをする。

「押すぞ」

と、俺が美央に言う。

「はい、お願いします」

と、言われたので俺が美央の背中を押す。

「んっ...はぁ..くう...あん...」

「...」

「はぅ..うん..ふぅ..」

(おい!なんでこんなに声がエロいんだよ⁉︎)

俺は押す力を抜く。

「ふぅ、私、結構硬いんですよね」

と、美央が言う。

「そ、そうなんだな」

「じゃあ、次は雅くんの番ですよ!」

「ああ、頼む」

美央が俺の背中を押す。

「おおー雅くんすごいですね、膝に胸が付いてますよ」

「ああ、まあな」

と、言うと

「ふふっ」

と、美央が不敵に笑う。

すると

「雅くんかっこいい」

と、耳元で囁かれる。

「え?」

「雅くん好き好き」

「お、おい美央!」

と、雅が言うと、更に美央が囁く。

「や、やめろって...おい」

雅は、人一倍耳が敏感なため、囁き声はかなり効く。

そのまま美央には準備運動が終わるまで囁かれ続けた。

「はぁ疲れた」

と、俺が呟くと

「なんかあったの?」

と、遥が聞いてきた。

「あ、ああちょっとな」

「ふーん」

遥が何か疑うような目で見てくる。

「なんだかお疲れですね?そんなに準備運動がきつかったですか?」

と、美央が言ってくる。

「...分かってるくせに」

「ふふっ雅くんは耳が弱いんですね」

こうして、俺は美央に弱い部分を知られて体育は終わったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る