栗ごはん爆弾おにぎりは、罪の味

「シスター・クリス、クマさんはー?」


「お山に帰っていきましたよ。もう心配はいりません」


 あのあと、クマさんは邪気がすっかり取れて、山の住民として迎え入れられました。

 よかったです。


 そんなことより栗ご飯ですよ。

 この瞬間を待っていたのです。


 と思っていたら、みんなおっぱじめていました。

 思い思いに食事タイムになっています。


 お茶碗でいただく子どもや、おにぎりにしてワイワイと楽しむ子どもも。


「すいません、シスター。こちらだけで始めてしまって」


 引率の先生が、わたしに謝ります。


「お気になさらず。怖い思いをしたのです。少しでも、トラウマを和らげることは、よきことですよ」


 わたしは、特に気にしません。適切な判断だと、思います。わたしだって、こうするでしょう。

  

「さあクリス。今日は、あたしが握ってやる」


 ソナエさんが、わたしの分を用意してくださるようです。


「座って待ってなよ」


「はい」


 言われた通り、しばし待ちましょう。


 はあ、紅葉がキレイです。

 でも、美しい景色ではお腹が満たされません。

 わたしはどこまでも現金で、罪深い女ですね。

 あのクマのことを、言えません。


 なにやら、バカでかいおにぎりがやってきましたよ。いわゆる「デカ盛り」というやつです。おにぎり全体を、焼き海苔でグルグルと覆っていますね。


 わずかな栗の香りと、焼いた海苔の磯っぽさが合わさって、脳がやられそうです。


 これは、どか食い欲が増すというもの。


「爆弾おにぎりだ。あんたならペロリだろ」


「ペロリもペロリですね」


 カルビ挟みパンを食べたばかりですが、クマ退治でもうお腹が空いています。


 今なら、このおにぎりも美味しくいただけるでしょう。


「では、いただきます」


 ああ、罪深うまい。


 この大ボリューム! 殺人的な見た目に反して、この甘みの優しいこと!

 海苔との相性も、抜群です。


 この甘み、見事です。さすがソナエさん。


「中火でコトコト煮込むことで、栗のデンプンが糖に変わるんだよ」


「なるほど」


 説明をされても、わたしには再現できるかは謎ですね。一応覚えておけば、労働者さんたちへの炊き出しに活用できるでしょう。


 なにより、お汁物がまた格別に罪深うまい。


「これ、なんですか? めちゃくちゃおいしいんですが?」


「さつまいもの味噌汁だよ」


 学校給食で出す、試供品だとか。


「栗だけではなくて、汁物にも穀物を使うと?」


「ガッツリしたメニューなのに、なんかヘルシーっぽいだろ?」


「はい。罪悪感があまり湧きませんね」

 

 これは甘くて美味しく、お腹も満たされます。


 すばらしい料理ですね。


 園児たちは夕飯もあるので、食べる量も少しだけで留めています。残りをおにぎりにして、保存魔法のかかった葉っぱに包んでいました。持って帰るようです。


 わたしですか?

 残るわけないじゃないですか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る