勇者のからあげとソーダは、平和の味

 レシピとノウハウを売って、志願者に作らせるのです。そうすれば、勇者は利益だけもらうことができますよ、と。


「商業ギルドに、腕のいい弁護士がいる。わたしが、掛け合ってやるよ」


「いいのかい、クリス? 何から何まで」


「わたしと、あんたの縁だ。別に構わないさ。その代わり」


「ああ。タダでいくらでも食べさせてあげるよ」


「こりゃあ、意地でも成功させなければね!」



 こうして、勇者のからあげは発展を遂げたのでした。



 会場から、拍手が沸き上がります。


 ようやく終わりました。


 わたしの演技は、どうでしたかね? 初代クリスに、遠く及ばないでしょう。

 なんたって、あの人はイネスことシスター・エンシェントいわく、化け物だったそうですから。生きる伝説ことエンシェントをして怪物呼ばわりですからね。


「お見事でしたよ、シスター・クリス」


「ありがとうございます。シスター・エンシェント」


「まさに、クリス・タンブールの生き写しでした。幼い頃に、戻った気がしましたよ」


 えーえ。わたし、そんなに化け物的な演技でしたかねぇ。


「さてさて! 堅苦しい話は抜きだ! 勇者のからあげとシャレ込もうじゃねえか!」


 わたしを含めたシスター四人、ウル王女とソナエさんで、勇者のからあげがある屋台村まで向かいました。




「待ってました。勇者のからあげ! 本物だぜ!」


 からあげがチリチリと音を立てて、お皿の上で踊っています。これは、早くお口でお迎えせねば。


 ソナエさんとエマ、フレン、エンシェントは、いつの間にかハイボールを頼んでいます。乾杯をしました。


「いただきます!」


 もう限界です。わたしは真っ先に、からあげにかぶりつきました。


 ウル王女も、同様です。


「うん! 罪深うまい!」


おいしいですわーっ!」


 わたしとウル王女の叫びが、屋台に響きました。


 これです。これぞ、勇者。

 空腹という魔王を倒しに参上した、伝説の勇者ですよ。


 ほどよく利いたスパイスと、香り付けのハーブ、味変のマヨネーズという味方を従えて。

 おとぎばなしではありません。

 このからあげこそ、本物の勇者だったのです。


「おまたせしました。おにぎりです」


「ありがとうございます。おお、来ましたよ!」


 召喚獣としての、ライス! これがまた、たまらない!


「おふおふ! おにぎりがまた、最高に罪深うまいんですよ!」


「ああ。これはもう勝利ですわ。世界の平和は守られました」


「胃袋の平和に、乾杯しましょう」


 飲めない組のわたしと王女は、ソーダ水で乾杯です。


 どうしてからあげって、こんなにも炭酸をおいしくするのでしょう! 罪深うまい。これは、背徳の味です。天下を取っちゃいますよ。


「これが、平和の味なんですね」

 


 この一夜に対して、わたしは【勇者のからあげ 第二章 開幕】と心の中で名付けています。



 翌日、買い物をしていると、歌が聞こえてきました。


 聖歌隊が、勇者のテーマを歌って歩いているのです。

 クリスマスが近づくと、たいてい流れてきますね。


 やっぱりわたしは、この曲が苦手です。


 なぜって?


 また、お腹が空くからですよ。


(勇者のからあげ編 完)

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