勇者のからあげは、栄光の味

「キミの弟子なんて、もうキミが教えたほうが強くなるでしょ」


 僧侶は主に、回復と防御を担当します。


 シスター・クリス・タンブールは違って、「殴り僧侶枠」として前衛で戦う担当でした。「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」と、仲間内での語り草になっています。


「同じ相手と戦っても、戦闘がワンパターンになるのさ。それで、なんでうなだれているんだい?」


 クリス・タンブールに、ケンタは答えました。


「借金が減らないよ」 


 ケンタは魔王を討伐した後、残ったお金で事業を起こしたのです。


 ところが、ことごとく失敗してしまいました。ケンタの商才は、ぶっちゃけゼロです。


 商船の警備は、船ごと波にさらわれ、全員生還できるのがやっとでした。


 異世界の技術を駆使して開発されたガス製のランプを販売したのです。しかし電気が開発されて、ガスランプは用済みになったのでした。どれも、ケンタが開発したものなのに。


「はあ。これじゃあなんのためにお仕事しているのか、わからないよ」


「なんだい。そんなことかい? それ全部、あんたのせいじゃないか」


 老婆クリスは、どストレートに意見をしました。


 また彼女は、口うるさいことでも有名でした。クリスは拳でも口でも、人にダメージを与えます。


「短い期間でデカく儲けようとするから、しくじるんじゃないか。もう歳なんだし、孫だっているだろうに」


「だから、孫に店の売上を残したかったんだけどね。そんなささやかな利益も、吹っ飛んじゃうんだ」


 唯一残ったのは、宿屋だけでした。


「宿屋だけやってりゃ、よかったんじゃないか」


「そうなんだ。別に横柄な客はいないし、接客も必要最低限でいいからね」


 名物のからあげセットも繁盛しています。


「あたしはその『からあげセット』をもらいにきたのさ。このコに食わせたくてね」


 エルフ役の園児の頭を、わたしはなでてあげました。


「お待ちを。からあげセット二つ。ライスは大盛りだ」


 しばらく待っていると、大盛りご飯の入ったお茶碗とともに、からあげが来ます。全部、紙製すけどね!


 持ってきてくれたのは、勇者の娘さんです。役者も、児童です。


「うん、これだよこれ。罪深うまい!」


 ああ、これが作り物じゃなかったら、どれだけ罪深うまかったか。あとで本物をいただきましょう。


「わかるかい、イネス。これが栄光の味さ」


「おいしい」


 イネスとは、シスター・エンシェントの本名です。


「ほら、お父さん。遠方からはるばる食べに来てくれる人がいるんだから、宿屋のからあげだけ出していればいいのよ」


「そうはいっても、もうこの歳では旅もできないよ」


 可能なら、からあげを世界中に自分の作った振る舞ってあげたい。しかし勇者ケンタの力では、今いるお客さんを回すだけで精一杯でした。


「簡単じゃないか。レシピを売ればいいんだ」 


「レシピを売るって、フランチャイズ契約を結べってこと?」


「そうさ」

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