紙芝居

 わたしたちは、次のお家へ向かいます。


「ごほん、よんでー」


 訪問した家にて、少女からリクエストをいただきました。


「申し訳ありません。他のお家にも伺う必要がありまして」


 少女は「えー」と残念がります。お母様になだめられて、落ち着きましたが。


 こちらとしても、子どもからのリクエストには極力、応えてあげたいのですけれど。


「どうしましょうか?」


「なんなら、人をいっぱい集めて一気に読み聞かせ、なんていかがでしょう」


 紙芝居ですか。その手もありましたね。こちらから出向かなくても、子どもたちが集まってくれます。


「いいアイデアですね。教会で企画しましょう」


 ハロウィンはこのまま継続しつつ、紙芝居の計画を立てました。



 数日かけて街中に予告の紙を貼り、ビラを配り続けます。

 わたしたちも、つたないながらもイラストをがんばりましたよ。

 


 当日、教会には、たくさんの子供達が集まっていました。


 エマとフレンが、子どもたちにお菓子を配ります。


 チョコレートクッキーと、炭酸ですよ。以前慰問に訪れた刑務所内での映画鑑賞のときと、同じメニューですね。わたしもほしいです。


 わたしとソナエさんが、舞台の横に立ちました。

 センターには、ウル王女が。紙芝居のセットを手にして。

 コスプレ衣装は、ハロウィンのままですよ。


 会場が、拍手に包まれます。


「むかしむかし、勇者ケンタという若者がいました」 

 

 ウル王女が、紙芝居のナレーションを読み上げました。

 

「ケンタはこことは違う世界から来た、男の子です。ケンタは強く、心優しい少年でした。魔王を倒し、世界に平和をもたらしたのです。ところが、魔王討伐から三〇年経ったある日のこと……」


 ここからは、わたしたちのパートです。


「はあ、ボクはどうしたらいいんだ」


 ソナエさんが、勇者になりきって演技をしました。


「どうしたんだい? 辛気臭い顔をして」


 できるだけノドを枯らせて、わたしは老婆になりきります。


「修道服を着た一人の老婆が、うなだれている勇者ケンタに声をかけます」


「ああ、シスター・クリス・ターンブル」 


 勇者ケンタ役のソナエさんが、わたしの声に振り返りました。


「タンブールだよ。いつになったら覚えるんだい?」


 噛みましたね、ソナエさん。


「ああ、そうだったね」


 会場が笑いに包まれました。


 史実には、こういう台詞はありません。


 ソナエさんがNGを出してしまったので、アドリブで切り抜けることにしました。

 

 台本の下から、ソナエさんがサムズ・アップしてきます。緊張がほぐれたようですね。笑いを取れたことで、おいしいと思っているみたいです。まさに鋼の心臓ですね。


「ケンタは、冒険者仲間のクリス・『タンブール』に声をかけられました」


 わたしの役は、初代シスター・クリス・クレイマーこと、クリス・『タンブール』です。


「やあ。キミは変わらないね」


「そうでもないさ。弟子を取ったよ」


「キミが、弟子を取るなんて。雨でも振りそうだね?」


「今日はあんたに稽古をつけてもらおうと、訓練でここにやってきた」


 ここでいう弟子とは、わたしの師匠でこの教会の最高責任者である、シスター・エンシェントのことですね。


 つまりこのお話は、一〇〇〇年ほど昔のことになりますか。

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