激辛のランク決めは、罪な儀式

 カレーラス子爵とハシオさんが、カレー屋さんにいます。 


「珍しい組み合わせですね」


 騎士であるハシオさんが、ハーブ系のカレー店にいるなんて。治癒に目覚めたのでしょうか?


「うふふ。実は共通の趣味があるってわかったの」


 趣味と? カレーがでしょうか?


「オイラたち、激辛好きなんすよ」


 なるほど。お二人とも、辛いものがお好きと。

 この間の集まりで、ハシオさんが辛い調味料をドバドバかけていたのを見て、おそらくは、と声をかけてみたそうで。


「わたしは辛いものが苦手なので、お付き合いはできませんよ」


「まあ、このカレー屋さんは辛くないものもあるから」


「ええ。良心的な辛さですよね」


「辛くしようと思えば、あっちにあるメニュー表から選べるけど」


 そんなシステムが、できたんですね。


「なんでもココって、辛いもの好きの聖地らしいのよ」


 無制限で、辛いものを食べられるのだとか。


「お二人は辛ければ辛いほどいい感じなので?」


「程度によるっす。さすがに食べられない辛さを求めるのは邪道かと。旨味を感じられるギリギリを責める感じが素敵なんすよ」


 ハシオさんは熱弁していますが、意味がわかりません。


「おまたせしました。【マグマスープカレー・六〇辛】です」


「あああああ、辛ぇ!」


 一見すると、スープカレーとナンのセットに過ぎません。


 しかし、見ているだけで、もう辛いです。目を開けられません。


「大丈夫っすか、シスター? 出しちゃいけない声で、鳴き出しましたよ」


「えっほえっほ。大丈夫です。えっほ。辛ぇ」


 漂ってくる匂いを嗅いだだけで、わたしは卒倒しそうになりました。人格が変わりそうになる辛さですね。見ているだけで、ダメージが入るとは。


「ハシオちゃん、お先に」


 涼しい顔で、カレーラス子爵が食べ始めます。子爵は、なんともありません。


「目に痛いですね。それ」


 汗なのか涙なのかわからない汁が、わたしの目から溢れ出てきます。


「あんたは別席で、普通のを頼みなさいな」


「いえ。見届けさせていただきます」


 というか、激辛好きが集まりすぎて、逃げ場がありません。カレーを食べに来ただけなのに、この盛況ぶり。


「おまたせしました。【悶絶カレーうどん・七〇辛】です」


 ぐへえええ。辛ぇ!


 なんという、目鼻への冒涜! しかもハシオさん、さっき「辛さで旨味が死んだら意味がねえ」なんてこと言ってませんでしたっけ!? こんな冒涜的な料理を前にして、まだ旨味を得られると?


「いただきます。うんっ。ちゃんと味がしみててウマいっす。辛さの中に、うどんの甘みを感じられるっすよ」


 うめえだと!? 


 ああ、いけません。人格が一瞬変わってしまうところでした。


 それにしても、エゲツナイですね。わたしは見ているだけで、卒倒しそうなのに。


「お客様、ご注文は?」


「普通のカレーライスをください」


 ええ。わたしにはこれがお似合いなのですよ。


 罪深うまい。このスプーンさえ、清涼剤ですね。

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