コンセプトカフェのメニューは、面妖な呪文

「ようこそ、シスター・クリス! エマさんにソナエさんも!」


 ウル王女が、新設したカフェに招待してくれました。今のウル王女は、左腕で右肘を抱えて、右手で自分の顔を隠すという、独特のポージングをしています。


 今のウル王女は、ダークサイド臭さがプンプンしていました。近寄りがたいですね。肩を思い切りだした夏らしいワンピースながら、アンスコがギリギリ見えそうな際どいフリルのミニスカですね。腕まで覆った手袋と、絶対領域を意識したニーソが、実に暑苦しいです。


 なにやら、怪しい電波を受信してしまったようですね。


「どうなさったのです? それにこの雰囲気」


 悪いものでも、食べたのでしょうか。


「実は、かなりツボに入る冒険小説を読みまして。その世界観をそのままカフェにできないかと! つまり、コンセプトカフェですわ!」


「はあ……」


 ハロウィンのときも思ったのですが、この人って外部からの刺激に影響されやすいんですよね。というか安い。やっす。


 他の店員も、同じようなファッションに身を包んでいました。それどころか、お客さんまで。


 オタカフェとは違った、珍妙な空気を醸し出しています。


「うわあ。あたしらは入っていいのか?」


「そうね。場違いな感じがするわ」


 ソナエさんとエマが、たじろいでいますね。


「ご安心を。カクテルメニューもございますから」


 ウル王女はいいますが、どうなんでしょうか。 


「では、テキーラをふたつ」


「はい。『火を焚べよ。燃え尽きた全てに』をおふたつで、ございますね?」


「は?」


 秒で、ソナエさんが聞き返します。


「どこにそんなのが……あ、メニュー表か」


 たしかに、そのような名前のカクテルが……そんな系統の名前のものしかありません。


 

【光が逆流する!】……花火つきのかき氷

【面倒は嫌いなんだ】……ビールと枝豆セット

【世に平穏のあらんことを】……黒蜜ホットケーキ

  

 これ、読解する力も試させるのですね。めんどくさいです。


「なによこれ、ふざけているの?」


「面妖な。変態調理師どもめ」


 エマもソナエさんも、対応に困っていました。 


「わたしは、オムライスが食べたかっただけなのですが。デミグラスソースで」


「承知しましたわシスター。プランDですわね」


 プランDデミグラスとか、どんなプランなんですかね?

 

「とんでもないところに、来ちまったな」


「でも、味は確かみたいよ。お客さんもたくさん」


 たしかに、エマの言うとおりです。


 にぎやかで……ん?


「ちょっと、なにがケンノジョーが受けよ! 彼はヘタレ攻めだわ!」


 なにやら、騒がしくなってきました。

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