マシマシは、罪の呪文

チョコレートチップ・エクストラコーヒー・ノンファットミルク・キャラメル・フラペ……あーはいはい罪罪

「デカフェ・ノンファットミルク・ホワイト・モカを、ショートで」


「かしこまりました」


 新しくできたカフェでは、呪文が飛び交っていました。

 ここは、オカシオ伯爵が運営しているオタカフェの系列店です。オタカフェとは違い、完全に女性客メインのお店だとか。


「敵情視察のために参りましたが、とんでもないお店に入ってしまいましたわ」


 ウル王女も、謎呪文に戸惑っている模様ですね。

 前のお客さんが頼んでいたものがでてきました。生クリームだかアイスクリームだかは知りませんが、カップの上で渦を巻いていますね。しかし、コーヒーの香りはあまりしません。これがデカフェというものでしょうか。


「カフェインを抜いたコーヒーのようですわ」


 メニュー表を見ながら、ウル王女が答えます。


「ノンファットってなんですか?」


「脂肪分を抜いていますと書いてありますわ。けれど、説明書きを読んでも、理屈がわかりませんでした」


 たしかに。乳製品を食べに来ているのに脂肪分は不要とか、なにを食べに来ているのか。わたしにも、さっぱり理解できません。ドカドカとガッツリいくのが、乳製品だとわたしは思うのですが。


 まあ、他人の行為に口を挟むのは野暮というもの。

 我々は一刻も早く、この呪文を覚えなくては。


「フラペチーノというのが人気だそうですわ」


 ここに来たら、まずそれを飲めという感じで売っています。


「マンゴーパッションティーフラペチーノをグランデ」


「かしこまりました」


 あの店員さん、あの呪文が瞬時に理解できるのですねぇ。信じられません。わたしなら、一生覚えられない自信があります。


 オーダーの品を見ると、たしかにマンゴーの色をした紅茶が来ましたね。


「そもそもフラペチーノとは、なんなんですか?」


「……あなた、なにしにここに来ましたの?」


「ゴハンを食べに来たんです」


「そうでしたわね……」


 フラペチーノとは、フラッペとカプチーノの合体したドリンク料理だそうです。フラッペは元々、砕いた氷にお酒を入れるものだったとか。


「フラッペって、上等なかき氷のことじゃないですか」 


 シャーベットっていいなさいよ。

 個人的には、こんな小洒落たお店でなくてよかったのです。夏なんですから、カーっとアイスコーヒーと山盛りアイスが乗ったパンケーキで乗り切らないとやってられません。こちらはさっきまで、炎天下で労働者にかき氷を振る舞っていたんですから。


 わたしのすぐ前にいるお客さんが、オーダーをします。


「チョコレートチップ・エクストラコーヒー・ノンファットミルク・キャラメル・フラペチーノ・ウィズ・チョコレートソースを、グランデでお願いします」


「かしこまりました」


 ムリムリムリムリ。あんなの覚えきれません。ウィズってなんですか?

 呪文ではなく、わたしたちにもわかる言葉でおしゃべりなさい。

 話せることは知っていんのですよ。


「次のお客様、どうぞ」


 わたしたちの番が、回ってきました。


「……アイスコーヒーを二つ、くださいな」


「かしこまりました」

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