シメのデザートは、ガトーショコラ入りのクレープで

「お次は、焼きポモドーロだ」


 オールドマン卿は続いて、赤いパスタを焼いてくれました。具材はソーセージとピーマンで、目玉焼きが乗っています。


「ポモドーロってなんですか?」


「トマトソースだな。トマトは平気か?」


「大好物です。いただきますね」


 おおう、罪深うまい。


 高級店ですが、クセがありません。トマトって、焼くとこうなるんですね。


「このソースでハンバーグをやってくれても、うまいぞ」


 肉肉しいハンバーグを、オールドマン卿がコロコロと焼き始めます。


 わたしはさっそく、つまませていただきました。


「はい。いただきます」


 おーっ、罪深うますぎる。わたしは思わず、ゲラゲラと笑い始めてしまいました。


 このお店、料理がどれも素晴らしいですね。ソースをパンに塗って食べても、十分おいしいです。肉の旨味が、パンに染み込んでいますよ。


「それにしてもエマが、よくこんなお店をご存知でしたねぇ」


「だってクリス、あなた、お酒が飲めないでしょ?」


 お酒が進むタイプのお店なので、誘いづらかったそうです。


 でもここは、パンが出ますからね。お米にパンという組わせも、大丈夫です。


「ソースというソースをパンでかき集めて食べる行為は、我々料理人からすると名誉なことだ」


 わたしの食べ方を、オールドマン卿は褒めてくださいました。


「ではデザート、クレープをご用意しよう」


 ほう、クレープですか。ウル王女のお店で一度、食べたことがあります。これがオールドマンシェフの手にかかると、どのようなクレープになるのでしょうか?


 なにやら、生地を薄く焼き始めました。焼けたら裏返して、またひっくり返しています。


 横の鉄板で油を引き、その上にお砂糖を。おおおおっ。お砂糖を、わざと焦がすんですねぇ。香ばしい香りが。


 また隣で、薄く切ったリンゴを焼き始めました。


 オールドマン卿が、生地の上に生クリームを塗ります。


 水気を飛ばして甘みが増したリンゴを、生地の上に。


 先程焦がしたお砂糖を、リンゴの上にかけました。最後に、チョコレートに浸した小さいスポンジケーキを乗せます。


「お砂糖の上に、チョコですか」


 甘さが爆発しそうですが。


「このチョコは苦味が強いからな。よし完成だ」


 生地を巻いて、お皿に盛り付けて完成のようです。


「焼きリンゴのキャラメルソースがけだ」


 まあ、この豪傑から、こんな繊細なデザートをいただけるなんて。


「ずいぶん失礼な感想を脳内で思っているようだが、まあいい。召し上がってもらおうか」


 では、いただきます。


「はあああ。罪深うまい」


 苦み走ったチョコのケーキが、いいアクセントになっています。


「このチョコケーキおいしいですね」


「ガトーショコラだな。生地にチョコレートを混ぜているのだ」


 これが焼きリンゴと合うのですよ。甘すぎず、舌を疲れさせません。


「やっぱ酒のシメは、これだよな」


 スパークリングワインに変えたソナエさんが、うっとりとした表情をしています。酔いがまわったのですかね?


「ごちそうさまでした。エマ、ソナエさん。ありがとうございます。カレーラス子爵も」


「こちらこそありがとう、クリス。楽しいバレンタインが過ごせたわ」


 ですが、ここまで豪勢なバレンタインだと、バチが当たりそうですね。



 やはりといいますか、後日わたしのザンゲ室には、悩み相談のお客で賑わっていました。


 これが天からのバツなのでしょか。はあ。


(バレンタイン編 完)

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