ステーキにスパイシーチョコレートソースは、罪の味

 もう一人、珍客が現れました。


「よお。久しぶり」


「ええ。ごきげんよう。クリスちゃん、エマちゃんにソナエちゃんも」


 ソナエさんがあいさつをしたのは、カレーラス子爵です。スパンコールのドレスを着ていました。


「ごきげんよう、オールドマン。相変わらず、繁盛しているわね」


「おかげさまでな。キミの写真趣味も、ずいぶん捗っているのでは?」


 こちらにステーキを焼きながら、オールドマン卿はカレーラス子爵と対話します。


「ええ。いい被写体に巡り会えて、幸せ」


 どうもオールドマン卿とカレーラス卿は、お知り合いのようですね。こちら同士が、つながっていたのですか。


 ソナエさんは以前、カレーラス卿と会っています。そちらから、エマに話が行ったと、なるほどなるほど。


「お二人はどういう知り合いで」


「スパイスの、購入先だ。カレーラス卿は、珍妙なスパイスを集めているからな」


「ええ。西洋がメインだけど、ソナエちゃんからは東洋の調味料を教わっているわ」


 たしかに、ソナエさんは東洋出身ですから。面白いスパイスが手に入りそうです。


「まあ、食べましょう。ここのステーキは、ソースが決め手なのよ」


 それは楽しみですね。


 オールドマン卿が、分厚いステーキをサイコロ状に切り分けます。わたしだったら、かじっっちゃいますね。こんなに厚くても。


「まるでそのままかじりついてしまいそうな、顔になってるぜ。クリス」


 あらあら。顔に出ていましたか。


 従業員が、わたしたちのテーブルにソース皿を置きました。


 真っ黒いソースの入った小皿が、わたしたちの前に。


「これよこれ。クリスにはこれを食べてもらいたかったの」


 ハシャギながら、エマがわたしに食べるよう催促してきます。


「いただきますから、落ち着いてください」


 そんなにおいしいんですか。ではいただくとしましょう。


 ううん。罪深うまい。独特の風味ですね。お肉の歯ごたえもですが、決め手のソースが売りなのか、お肉の風味と相性バッチリです。


「ああ、これはライスでお迎えしなくては」


「今、ガーリックライスを作っているから待っているがよい」


 鉄板の上で、オールドマン卿がライスを焼いています。チャーハンではなく、ガーリックライスでしたか。気が利きますね、オールドマン卿は。


「んっ、苦いんですね」


 ソース単体だと、やけに苦み走っています。ドロっとしていて、肉汁と組み合わさってようやく旨味が染み渡る感じですかね。


「これが大昔の、チョコの味だそうだ」


「え、これってチョコレートなんですか?」


 たしかに黒色ですが、言われるまでチョコだとはわかりませんでした。


 しかしオールドマンは、ウソを言ってからかうような人ではありません。事実なのでしょう。



「全然、甘くないです」


 感じられるのは、肉の甘味だけですね。


「そりゃそうよ。チョコレートは昔、薬として飲まれていたんだから」


 ああ! たしか子爵、そんなことを語ってくれていましたね。


 これが辛いチョコなんですか。

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