予想外の遭遇

 わたしがエマに連れてきてもらったのは、ステーキハウスです。目の前でステーキを焼いてもらうスタイルのお店ですね。ああ、目が罪まみれになります。


「おや、あなたでしたか」


「なんだ。珍しいな」


 鉄板を相手に包丁を操るのは、魔王ルーク・オールドマン卿ではありませんか。


 わたしが修行時代にお世話になった魔王ドローレス嬢の、ライバルです。


 この二人の間柄は、例えるなら「オールドマン氏が官僚なら、ドローレスはマフィア」といえばいいでしょうか。 


「人間態だと、Oオー・ルドマン伯爵でしたっけね?」


「侯爵だ。ちゃんと覚え給え」


 憮然とした態度ながら、お客さんにステーキを切り分けています。


「すごい人とお知り合いですね。エマ。あなたの知り合いというから、てっきりソナエさんあたりだろうと思っていましたよ」


「実際、予約席に座っているわよ」


 あ、ホントにいますね。すっごいボディを強調した、背中の開いたドレスを着ています。


 エマとソナエさんは、わたしがオールドマン作のデカ盛り料理を食べる大食い対決のとき、飲み会をしていたんですよね。オールドマンと面識なんてないはずですが。


「ルドマン侯爵、まさかあなた」


 オールドマン氏は、ヴァンパイアです。その気になれば、吸血で魅了することだって可能でしょう。


「冗談ではない。聖職者に手を付けるほど、我は飢えておらぬ」


 客の応対をしながら、ルドマン卿は反論しました。でしょうね。エマとソナエさんの二人だって、宗派は違えど聖なる神に命を捧げていますから。


 聖職者の血液は、アンデッドに強烈なダメージを与えます。対アンデッドには、最終兵器と言っていいでしょう。


「お二人は、このひとの正体を知っているのですか?」


「ああ。アンデッドだろ?」


 ソナエさんが、あっけらかんと答えました。


「おいしいって評判だから、この際、種族は関係ないわ」


 エマの性格からすれば、討伐対象にもなりかねません。なのに、この表情です。


「やっぱりあなた、魅了魔法か何かで」


「ムリだ。いくら魔王たる我でも、神のしもべは篭絡できぬし、したくもない」


 魔王オールドマンは、ただれた感情を秘めた純潔な女性にしか興味がないとか。そういう人を開放してあげることに、興奮を覚えるそうです。一言で言えば、ヘンタイさんですね。


「まあ、座り給え。キミらに順番が回ってくるぞ」


 いよいよ、オールドマンさんが、わたしたちに腕を振るってくれるそうです。


 カウンター型の鉄板で、待つことにしましょう。

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