シスター・クリスの恋愛相談

 エマのザンゲ室の前に、長蛇の列ができていました。


「あたしだけじゃ、全員の悩みを聞いてあげられないの!」


「わたしに恋愛相談とか……」


 ままごとしか料理経験のない少女に、フルコースを作らせるようなものです。


「誰もあなたに、恋愛のイロハなんて求めないわ。話を聞いてあげるだけでいいのよ。女はたいてい、話した時点で九割解決しているから」


 だったら、かぼちゃと話していればいいじゃないですか。女って、面倒ですね。


「はい、わかりましたよ。その代わり」


「ごちそうよね?」


「よくおわかりで」


 仕方なく、わたしは自分のザンゲ室に着席します。


「お悩み、後悔していることをどうぞ」


「好きな人がいるんです」


 これまた、ど直球な。


「でも、お話する勇気が持てなくて」


「どういったご関係で?」


「上司です。仕事面で、お世話になっているうちに……」


 なるほどねえ。


「あなたはお世話になった人に対して、いちいち構えるのですか?」


「え?」


 相談者が、あっけに取られています。


「あなたはそもそもの魂胆が、間違っているのです。いいですか? バレンタインというのは本来、日頃お世話になった方をねぎらう行事です」


 実はバレンタインとは決して、愛の告白をするためだけのイベントではありません。


「それをご存知ない?」


「初めて聞きました」


「この際ですから、覚えて帰ってください」


 バレンタインのたびに、こんな行列ができてしまったらシャレになりませんよ。ちゃんと、バレンタインの本来あるべき姿に戻さないと。


「日頃から感謝していますと、お伝えなさい。それだけで相手は、あなたが自分に好意を抱いていると思っていただけるでしょう」


「でも、相手はライバルが多くて」


「それはバレンタインで感謝を述べてから、考えればよろしいでしょ? 意識していない相手にいきなり交際を迫られても、相手は困惑しますよ。相手が非モテならまだしも」


 相談者は、黙り込みます。


「いいですか? まずは、感謝です。『親切にしてくださってありがとうございます』と、心からお相手に伝えることが先決ですね。それからは、なりゆきに任せるしかありません」


 手作り弁当を作るなり、毎日お花をお渡しするなり、いくらでもできるでしょう。手作りではなくても、屋台のお菓子程度で構いません。


 バレンタインだからと、みなさんは気負い過ぎなのですよ。いいものを買おうとしすぎています。それではただの、消耗戦ではありませんか。


「すいません。お説教のような形になりまして。参考になりませんでしたね?」


「とんでもない! ありがとうございました」


 相談者は、去っていきました。


 うーん、いけませんね。虫の居所が悪かったとは言え、少々おとなげなかったです。

 

 面倒なのを理由に、相談者にあたってはいけません。


「次の方、どうぞ」


「シスタークリス、交際してください」


「お引取りください」


 流石に食べ物でも買収されませんよ、こればかりは。

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