バレンタインは、罪なイベント

チョコレートの歴史

 街が色めき立っています。


 あたり一面から、チョコレートの香りが。


 どの女性も、顔を赤らめていました。


 屋台はどれも、バレンタイン一色ですね。


 オカシオ伯爵が経営するオタカフェでも、バレンタイン用のイベントをするのだとか。


 となると、わたしたちがさせられることは一つなのでして……。


「いいわ、シスター・クリスちゃん! その物憂げな表情最っ高!」


 例のごとく、わたしはカレーラス子爵の被写体になっていました。


 魔術学校の制服を着て、チョコレートを差し出すポーズを取らされています。


「告白を受け入れてもらえるか、不安がっているあなた、最高よ。クリスちゃん!」


 箱の中身が空っぽだから、ガッカリしているだけなのですがねえ。


 空箱なんて持たされても、空腹は満たされません。


「ソナエちゃん、あんたもそのツンデレ!」


 背を向けたまま肩越しに『ほらよ』って感じで、チョコを渡す写真ができあがりました。足首までのロングスカートなのが前時代的ですが、不良をイメージするならこれしかありません。


「実にクールビューティな感じがして素敵!」


 もう一人の被写体であるソナエさんを、子爵が褒め称えます。


 とうのソナエさんは、退屈そうにしていますが。


「今、何を考えてます?」


「お返しには、酒がほしいかなって」


 損得勘定でしか動きませんからね、この人は。ツンケンしているのではなく、ガチ非情なのです。


「うーん、魔術とチョコなんて、意味があるのでしょうか?」


「大ありよ。その昔、魔女はチョコを媚薬として重宝していたらしいわ」


 先に撮影を終えたヘルトさんが、教えてくれました。彼女は今、女教師の格好をしています。胸にチョコの空箱を挟んでいますね。


「それが研究に研究を重ねて、今の甘~いチョコレートになったんだから」


「チョコって、昔は甘くなかったんですか?」


「ええ。香辛料の一つだったのよ」


 どうも、溶かして飲むドリンクだったとか。


 なるほど。薬草の一種だったとは。


「つい最近になって、どこかの王様がチョコにハチミツを入れて飲むようになったの。最近っつても、何百年も昔のことだけど」


「アンコみてえだな。アンコも、材料の小豆自体に甘みはないからな。砂糖を入れて、ようやく甘くなるんだよ」


「ええ、それに近いわね」


 驚きです。昔からチョコレートは、甘い食べものだと思っていましたからね。


「今度、辛いチョコを食べさせてあげるわ」


「楽しみです、子爵」


 辛いものは正直苦手です。が、カレーラス子爵の選ぶ料理は、辛いけどおいしいですからね。期待せずにはいられません。


「さて、限定チョコストロベリーケーキだよ」


 オカシオ伯爵が、カップケーキを人数分用意しました。


 限定……なんと耽美な響きなのでしょうか。

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