ビスケットとミルクは、恵みの味

「うん、いいね」


 わたしと衣装を入れ替えて、ソナエさんはミニスカサンタ姿になりました。


「インナーは、いりませんか?」


 トナカイのコスプレをしたわたしは、毛糸の下着を穿いています。さすがに寒すぎますからね。


「衣装と下着に防寒魔法を施してあるから、寒くねえ」


 まあ、わたしたちクラスになると耐寒の魔法が使えます。それでも、こういうのは気分の問題だと思うのですよ。人様に下着を露出しかねない衣装とは、なにかと気を使いますから。


 ですが、ソナエさんはまったく気にする素振りをしません。大股開きで歩き、街を闊歩します。ジロジロ見られているのに。


「恥ずかしくありませんか? あなた素足じゃないですか」

「あたしの国では、トナカイの角をつけながら歩くほうがハズいんだよ」


 どんな風習なのでしょう?


 まあ、毛糸の下着をつけると、服の形が崩れますからね。


 第一おうちに突撃です。 


「お邪魔します」


「おらおら、プレゼントだ」


 ソナエさんが、家に銅貨をバラマキました。


 家人は、器用に銅貨をザルでキャッチします。ザルで受けた銅貨を、家人は靴下に入れました。手慣れたものですね。


「ありがとうございます、サンタさん。お礼にコレを」


 わたしたちは、ビスケット一枚とホットミルクをごちそうになりました。



 うん。うまい。



 これは、天の恵みです。罪深さは感じません。


「おいしかったです。ありがとうございました」


「お気をつけて」


 他の家でも、銅貨と引き換えにビスケットとミルクをいただきました。どの家でもらう量も、多くありません。


 本来なら、寝床に吊るした靴下の横に置いておくものです。

 我々は玄関からあいさつをして、堂々と入りますからね。


「たまに街を見て回るのもいいな」


「そうですね」


 この行事は、街のパトロールも兼ねています。なので、戦闘経験の高い者たちで結成しているのですね。


 とはいえ。


「ありがとうございます」


「ええ、どうも。お邪魔しました……」


 ミルクを飲み干し、家を後にしました。


「なあ、クリス」


 あと数件といったところで、ソナエさんがぼやき出します。


「なんです?」


「味に飽きてきた」


「わたしもです」


 はあ。代わり映えがしません。どこでも、同じ味をいただきます。

 ビスケットとミルクだけですからね。

 たまに気を使い、アメ玉をくださる家もありました。ですが、味変とはいきません。いただきものなので、文句は言えないのですが。


 神の恵みは、いつの時代も味気ないです。


 すべての街を回り終えて、一同が合流地点である教会に戻ってきました。


「皆の者、ご苦労さん。じゃあ、夜鳴きそばに行こうか」


「待ってました!」


 ドワーフさんの言葉に、ソナエさんが真っ先に指を鳴らします。


 罪が恋しいですね。

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