芝居 『翼の汚れた天使』

 わたしは、演劇の台本をソナエさんに見せます。


「んー、『翼の汚れた天使』だって?」


「はい。エマが演劇の参考にと持ってきた絵本です」


 内容は、こんな感じでした。


 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~  


 痩せた魔術師が葉巻をくわえていると、何者かが事務所をノックする。


「誰でえ?」


 太っちょな男が、入ってきた。このデブはライバルの悪徳司祭だ。


「テメエ、うちのシマで随分と派手にやらかしたそうじゃねえか。落とし前をつけろ。こんだけよこしな」


 ふてぶてしい顔で、太っちょが痩せを脅す。


「はあ? 金だと?」


 魔術師も、黙っていない。


「はした金だろうが。これで恨みっこ無しで手を売ってやろうってんだ。ありがたく思え」


「てめえ。誰に口をきいてんのか、わかったんのか?」


 立てかけていた杖に手を添えて、魔術師が立ち上がる。


「コトを起こしたのは、テメエの配下にいる修道士どもがヘマやらかしたからだろうが。迷惑料を用意するのはそっちだってんだ。わかったなら手の銃を玄関の側に置いて、とっとと失せろ」


「んだと? そんな脅しが通用するとでも思ってんのか、ああ?」


 司祭は、銃に指をかけた。


 杖を太っちょに向けて、ファイアーボールを展開する。


 それだけで、司祭の指が焼け焦げた。あまりの痛みに、銃を落とす。


「いいか、一〇数えるうちに失せやがれ。でないと俺様のファイアーボールで丸焦げになるぜ」


「ちくしょう!」


「ワン! ツー ! テン!  ギャハハハハハ!」


 司祭が出ていこうとした瞬間、背後からファイアーボールを司祭に放った。


 半狂乱になりながら、魔術師がファイアーボールを乱れ打つ。


「へ、釣りは取っとけ。このクソッタレが」


 黒焦げになって息絶えた司祭に向けて、魔術師はツバを吐き捨てる。



~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~



「物騒なお芝居ですわね? これをクリスさんの教会でやるとは、思えませんが」


「フィルムノワールだと知ったのが、買った後でしたからねぇ」


 よって、このお話はボツになりました。


 ですが、内容自体はそれなりに面白く、教会内で回し読みがされたのでした。


「あのお屋敷から聞こえた一連の言葉が、このお芝居のセリフそっくりなんですよねえ」


「では、誘拐犯がいる可能性は低い、と?」


「わたしの予想では」


 本当に誘拐犯なら、そんな芝居は不要です。素直に子どもに受け取らせればいいのですから。逃げられないように、刃物か魔術の杖で脅しながらやれば。


 となると、可能性は一つです。


 なので、わたしはゴロンさんの制服を、帽子だけお借りします。今度はわたしが、ノッカーを叩きました。


 玄関には、もうピザはありません。我々がゴロンさんをかばっている間に、ピザはとられちゃったみたいです。


『誰でえ?』


「あのー、さきほどのピザ屋です。オーダーを間違えてしまったみたいですー」


『はあ? 金……』


 どうも、アドリブは得意ではないみたいですね。


「返品をお願いしたいのですが」


 言葉が返ってきません。


「食べられちゃうと困るんですよぉ。別の家に配達するものをお渡ししてしまって」


 そこまで言うと、ドアがゆっくりと開きました。ピザが玄関に差し出されます。


「今です!」


 わたしはドアの反対側にいたソナエさんとウル王女に、指示を送りました。


 ドアをわたしが固定し、二人に部屋へ飛び込んでもらう作戦です。


 ところが、ソナエさんも王女も、巨大な手にふっとばされました。


「また、アタシを追い出す奴らが出てきたの!?」


 三角のとんがり帽子をかぶった小さい女の子が、屋敷並みに大きなガイコツの手に乗っています。


 この子、ネクロマンサーですね。

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