お化け屋敷のチンピラ

 わたしたちは、ウル王女から教わった行き先を辿って、お化け屋敷へと向かいました。


 正直言うと、もっとゴハンを食べたかったんですけどね。


「夜中の牛丼が恋しいです」


「ああ、国王といっぱい引っ掛けに行くのは、わりと楽しかったよな」


「え、ちょっと、もしかして本当に国王と夜をともになさったわけでは……」


 ソナエさんに限って、そんなことはないと思いますが。


「ないない。ウルのオヤジだぞ?」


 ですよね。


「娘の顔がちらつくから、そんな雰囲気になんかなるかよ。どんだけ酔っ払ってるからって、ほっぺにちゅーすらしたことねえよ。お前だってそうだろ?」


「はい」


 わたしは断言しました。この人、ちょっと酔ってますね。


「なんだか、バカにされたような気がしますわ」


 とんでもありません。


 気心がしれているから、話しやすいのは確かです。だからと言って、えっちな気分にはならないだけです。


「それよりウル、ここでいいんだよな?」


 やけに灰色がかったお屋敷です。工事用の道具が、そのままになっていますね。


「間違いありませんわ……おや?」


 先客がいますね。あの人は。


「ゴロンさん!」


『出前ニャン』の配達員、ゴロンさんです。お望みとあらば、魔王城までひとっ飛びしてくれる、出前ニャンが誇るエースですよ。


「ああ、シスター。みなさんもお揃いで」


「今日はこちらに配達を」


「ええ。ピザをお届けに」


「人が住んでいないのに?」


 少し、ゴロンさんが驚きました。


「でも、電話はあったんですよ?」


「どのような?」


「女の子の声でした」


 人が住んでいると?


「なんでもいいや。配達を続けな」


「はい」


 ゴロンさんが、木製扉についたノッカーを叩きます。


『誰でえ?』


 野太い声が、ドアの向こうからしました。明らかにそのスジの関係者みたいな声です。


 電話では女の子だと言っていましたが。


 まさか、何者かに誘拐されて、出前を取るフリをして冒険者を呼んだんでしょうか?


「ピザを、お持ちしました」


『玄関の側に置いて、とっとと失せろ』


 横暴な人ですね。


「あの、お会計を」


『はあ? 金だと?』


 いやいや、お金は必要でしょう。


『いくらだ?』


「銅貨七枚です」


 ゴロンさんが言うと、玄関の下にあるネコの通り道から、お金がボトッと落ちます。なんと、銀貨一枚もくれました。


「ありがとうございます。今お釣りを」


『釣りは取っとけ。このクソッタレが』


「いやでも、そういうわけには」


 慌てて、ゴロンさんが営業用財布をまさぐります。


『いいか、一〇数えるうちに失せやがれ。でないと俺様のファイアーボールで丸焦げになるぜ』


「ちょ、ちょっと!?」


『ワン! ツー! テン! ギャハハハハハ!』


 窓の向こうで、火の手が上がりました。


「ひいいいいい!」


 ゴロンさんが、慌てて逃げていきます。


「待ってくださいゴロンさん」


「なんですか! 今の見ましたよね? 魔法を使ってきましたよ」


「いや、実はさっきのセリフ、最近どこかで聞いたことがあるですよねぇ」


 エマがハロウィンの余興をするために買ってきた、子ども向けお芝居の台本で。

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