突撃、隣のハロウィンめし

 どうも、この付近にお化け屋敷ができてしまったそうです。


 わたしは、街のみなさんとハロウィンを楽しみたかったのですが。


「ゾンビとかを退治すれば、よろしいのでしょうか?」


「そのゾンビやらポルターガイストやらを操る輩が、いるそうなのですわ」


 我々が向かう先は、とある貴族がいたお屋敷だそうです。


 老朽化のために火災の危険があるため、取り壊すことになったとか。盗賊が拠点にしないよう。防犯の意味もあるそうです。


 ですが、ゾンビたちが現れて困っているのだとか。


 腕の立つ冒険者でさえ、太刀打ちできないらしいですね。


「なら、ミュラーさんに頼めばいいじゃないですか」


「ミュラーたちも騎士団も、国王の遠征に護衛としてついていったんだ」


「ああ、飲み友だちとして同行させられたんですね」


「さすが、あのオヤジの性格を見抜いてやがるな。お察しのとおりだ」


 といっても、そのゾンビたちは、街に出てまで人々を脅かしに来るわけではありません。


「それで、ソナエさんに白羽の矢が立ったのですわ」


 工事責任者であるウル王女も、立会人として同行なさるそうです。


「大変ですね。わたしはあなたの護衛と、ソナエさんバックアップですかね?」


「はい。お願いできますでしょうか?」


 可能です。どちらもわたしが必要だとは思えませんが、相手が相手ですからね。引き受けましょう。


「では、お菓子をもらいつつ進みましょう」


 どうせ、街を進むのです。もらわないと損です。


「相変わらず、呑気だねぇ」


「ハロウィンですからね」


「あんたのその性格の方が、悪魔的だと思うぜ」


 何をおっしゃる、ソナエさん。わたしは今日だけ、悪魔なのです。


「まいどどうも、おばあちゃん。デビル・クリスです。【突撃、隣のハロウィンめし】でございます」


 まずは第一民家へ。


「おやまあ、クリスさん。こちらをどうぞ」


 わたしたちは、かぼちゃのパイをいただきました。


「うん、罪深うまい。ありがとうございます。こちらをどうぞ」


 お返しに、教会で焼いたクッキーを渡します。


「おいクリス、こんなことをしている場合じゃ」


「おばあちゃん、この付近にあるお化け屋敷について、知っていることはありませんか?」


 なにもわたしは、お菓子欲しさに街を回っているのではないのです。古くからこの街に住んでいる人から、情報を得るためなのですよ。


「まるで、今さっき思いついたアイデアのようですわ」


「お前さんの口が一番、パイ生地まみれだしな」


 ほっといてください、ふたりとも。


「いいんです。わたしは食べ物につられて悪堕ちしたシスター、という設定ですからっ」


「やっすい理由だな」


 去年は、わたしもそう思っていました。


「ああ、あそこかい?」


 おばあちゃんが、当時を語り始めます。


「時計稼業で当たった一家でねえ。でも、家族間の仲はあまりよくなくて、五〇年も前に息子夫婦が出て行っちまったのさ。そこから、あの家は寂れちまって。なんでも、孫娘には不思議な力があったらしくてさ」


「どのような?」


「生き物の時間を巻き戻せるとか」

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