王妃が、罪の味を求める理由

「いただきます……うん」


 これは、罪深うまい。


 ボイルしたホタテも入っていますね。ナルトもいい味を出しています。


 見た目は濃そうなのに、あっさりしていますね。


 お酒を飲んだ方にとっては、優しい味なのでしょう。


「おいしいわね」


 王妃は、噛みしめるように部下のラーメンを食べています。


「ラーメンの完成度は、さすがに本家であるお隣には敵いません」


「ここはここなりに、独特の味があるわ。ねえ、シスター?」


 急に話を振られて、わたしは思わずむせそうになりました。


「コホン……そうですね。なにも本格的なプロと比べることも、ないでしょう。自分がおいしいと思った味を、お出しすればいいかなって思いますよ」


「ありがとうございます」


 ごちそうさまでした。すばらしいラーメンでしたね。


「いいですね。けど、これはもはやシメではありません。主食ですね」


 もう主役を張れます。それくらい、すばらしい味ですよ。


「お褒めの言葉、ありがとうございます」


「お礼はいいので、ライスを」


「かしこまりました」


 丼で、ライスが目の前に置かれました。


 これですよ、これ! この佇まいこそ、わたしの求めていたものです。


 残ったスープに、ゴハンをぶち込みました。これがわたしの、カクテルです。


 ほら、罪深うまい。

 思っていた通りの味です。世界一幸せなカクテルですよ。


 お酒なんてなくたって、人は幸福を手に入れられるのですよ。情報ソースは、わたしです。


「いいわね、それ。お腹いっぱいだけど、私もやってみようかしら?」


「では、小ライスでいかがでしょう?」


「気が利くわね、カロリーネ。ぜひお願いするわ」


 小ライスが、王妃の席に置かれました。


「ああっ。これはもう一杯、お酒が欲しくなるわね」


 ですよね。


「そう思いましたので、ピニャコラーダです」


 オーダーしていないのに、二杯目のカクテルが王妃の前に。ココナッツミルクのカクテルだとか。


 わたしには、ココナッツミルクのジュースそのものが。


「うん。罪深うまい……」


 食べた後に飲むことを考えた、お腹に優しい味ですね。


「ありがとう、カロリーネ」


 カロリーネさんは、何もかも完璧です。さすが王族に仕える身、といえました。


「いやあ、ダンナが夢中になるのもわかるわ」


 お腹を擦りながら、王妃が満足げな顔になります。


「今日は同伴ありがとう、シスター」


「いえいえ」


 こちらは、お代金を出してもらっている身なので。


「それにしても、どうして深夜にお食事をなさろうと?」


 王妃なんですから、コソコソ出回らなくてもいいのに。


「国王が楽しんでいるのに、妻のワタシが楽しんでいないって不公平でしょ?」


 ああ、この人らしい理由ですね。


「レッドアイです」


「ありがとう」


 三杯目のカクテルは、トマトジュースがベースのようです。


「それにダンナが夢中になる食事を、ワタシが知らないのはプライドが許しません」


「出歩くことに、問題はないと?」


「わたしが怒っているのはスキャンダルです。他所様にご迷惑をおかけしましたから。深夜にゴハンを食べることは、悪くありません」


 なるほど。ご主人と罪を共有するために、深夜の食べ歩きをしていたと。


「ダンナばっかりズルい」という本心が、若干ながらうかがえますけど。


「では、食べること自体はお許しになると?」


「神様に仕える人が、深夜に出歩いているんですもの。国王が物を食べても、バチは当たりませんよ」


「それを言われると、弱いですねえ」


 ともあれ、わたしの食べ歩きもまだ続けられそうですね。


 帰るとします……か?


「あ、そうだわシスター。もう一件行きましょう」


「はい?」


「一、二件食べ歩いたくらいでは、収まりがつかないでしょ? 今日は朝まで飲むわよ。付き合いなさい」


「うへえ」


 なんとまあ、王妃の酒癖は絡み酒でしたか。


 結局、王妃と朝までハシゴ酒の旅を行いました。


 これが、神に背いたわたしのバチなのでしょうね。



(深夜の牛丼編 完)

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