モクテルは、罪の味

「さて、次はラーメンね」


 わたしは、提灯を下げている海の家に向かいました。


 いつもは店舗に向かうのですが、今日は特別です。


「シスター・クリスさまに……王妃殿下。こんなところに」


 珍しい顔ぶれを見て、店主のカロリーネさんが驚いていました。カロリーネさんは、ウル王女の侍女さんです。


「あなたの働きぶりを、観に来ました。夜中なのに、繁盛しているのね」


 カウンターに座り、王妃はカクテルとラーメンを注文しました。


「この子には、モクテルを。ベースは同じものでいいから、ジュースにしてちょうだい」


「かしこまりました」


 モクテル? 聞いたことがありません。


「あの、わたしはアルコールが苦手でして」


「大丈夫。モクテルってのは、カクテルをマネしたノンアルコールのドリンクよ」


 モックカクテル、つまりカクテルのモックマネをしたカクテルだそうです。そんなドリンクがあるんですね。


「飲めない方も、ご利用なさるので」


「なるほど」


 カロリーネさんも、そんなにお酒は強いほうじゃないそうです。まあ、馬車の運転をなさいますしね。


「ミニラーメンですが、よろしいのですか?」


 こちらのラーメンですが、ホントはシメに出されるものだそうで。量も少ないですが、見た目は本格的です。


「お隣りにあるステフさんのお店なら、メインなのですが」


 あちらは本業ですからね。貴族からラーメン屋を経営したという変わり者ですが、味は保証します。


「それはそれ。これはこれよ。ここには、あなたのラーメンを食べに来たの。あなた、もうすぐ役目を終えるでしょ?」


「はい。明後日には姫の護衛に戻ります」


「今しか食べられないですわね。いただくわ」


「そういうことでしたら」


 カロリーネさんが、準備を始めました。


「先にドリンクを。スクリュードライバーです」


「ありがとう。いただくわ」


 一応シメということで、王妃はカクテルを飲んでいます。かなり強いお酒のようですね。オレンジジュースがベースのようですが、こちらまでアルコールの香りがします。お酒に強いのでしょうか。


 わたしの方は、同じ色です。さてモクテルとやらは……。


「うん! 罪深うまい!」


 一口目は、苦いです。グレープフルーツのような酸味が、グワッと押し寄せてきました。でも、すごく優しい口当たりですね。その後、すぐに甘いジュースの香りと味がフワッと口に広がりました。


 ああ、これがカクテルなのですねえ。シャンメリーなら、飲んだことがあります。しかし、本格的なお酒の味って、知らないんですよね。こういうものなのでしょうか。


「いつも、こういったオシャレなお酒を飲むんですか?」


「普段はもっと強いお酒を、ストレートでいただくわ。それこそワインとかね。だけど今日はクリスちゃんと飲むから、たまに飲むカクテルにしているの」


「気を使わせましたか?」


「まさか。たまにはこういうのも味わい深いから、いい感じよ」


 麺の湯切り音が、心地よいですね。これだけで、ゴハン三杯はいけますよ。ですがお酒のみなら、ドリンク三杯で利かないでしょう。


「どうぞ。ミニラーメンです」


 二杯のラーメンが、カウンターに置かれました。

 いわゆる魚介、煮干しラーメンです。

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