珍客

「あなたねえ。誰彼構わず見境なく」


 王妃様は、呆れ果てていました。


 このままでは、国王に男色の疑いまで。


「いや、あのですね。これは」


「貧民街の少年に食事を与えるのは、結構なことです。しかし、夜中に小さな子どもを連れて歩いてはいけません。ねえ、シスター・クリス」


 王と牛丼を食べた少年の正体は、男装したわたしなんですけどね。


 どうやら、王妃は気づいていない模様です。


 つまり、わたしに女性的な魅力は皆無ということですね。


「は、はあ」


 なので、わたしは適当に相槌を撃つことにしました。


「おそらくその少年がなんらかの事情で食いっぱぐれてしまったのを、王は目撃したのでしょうね。ならば、時間をよく考えてウチに誘えばよかったのです。どうせなら、知り合いの貧民たちも集めて」


「そしたら、貧民全員が城に行ったら飯が食えるって押し寄せてきちまうぞ」


「あなたのお小遣いから差っ引きますから、ご安心を」


「うへえ、オレのケツの毛まで抜き取る気かよ……」


 王は反論しようとしましたが、王妃に諭されて引き下がります。


「とにかく、あなたは奉仕活動一ヶ月を言い渡します。といっても、あなたはとうに実行なさっているのですよね?」


 そう。国王の朝ジョギングは、パトロールも兼ねています。もっとも、国王のようなマッチョ男が走り回っているせいで、朝方はまるで犯罪が起きません。


「これではバツになりません。やはり禁酒ですね」


「母ちゃんっ、いくらなんでもあんまりだぜ」


「だまらっしゃい。スキャンダルで迷惑をしているのは、ソナエさんの方なんですよ。少しは自重なさってください」


 ソナエさんの方も「そうだそうだ」と、言っていました。


 結局、王妃の考えは覆りません。国王は、朝のジョギング以外は外出禁止となりました。



 その日の夜です。


 わたしはいつものように、深夜遅くまで書類整理におわれていました。


 窓を叩く小石が、一つ二つ。もう三つ目になろうとしています。


 なんでしょう。おそらく、国王が謹慎を抜け出してきたに違いありません。


 これは、無視しましょうかね? ソナエさんのように巻き添えを食らうのは、ゴメンです。しかしそれだと、わたしが外食できないというジレンマが。ちょうどこの時間って、脂っぽいものが欲しくなる時間帯なのですよ。


 牛丼やラーメンって、どうして夜中に食べると美味しいのでしょう? 


 夜中に食べたいと思う、わたしが悪いのでしょうか?


 覗くだけ、覗いてみましょう。


 国王を追い払う意志力がわたしにあるかは、謎です。しかし、心を鬼にせねば。


「え!?」


 わたしは思わず、大声をだしかけました。


 なんと、窓を叩いていたのは王妃の方だったのです。

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