深夜の牛丼は、罪の味

夜更かシスター

「あふぁ」


 深夜、わたしは一人であくびを噛み殺します。


 書類整理で、かなりの時間を食ってしまいましたね。


 免罪符? 我々の国にそんな制度はありません。あったかもしれませんが、駆逐されたでしょうね。持っているだけで罪が洗い流されるなら、苦労しませんょ。


「クリス先輩、あとは私たちでやりますから、寝てください」


 仮眠を取っていたフレン及び後輩のシスターが、わたしの肩に毛布をかけてくれました。


「あなた方こそ、明日は朝のお給仕でしょ? 早くおやすみなさい」


 わたしは明日、なんの予定もありません。冒険の依頼もないですから、いくらでも夜更かします。なにより、他のシスターと交代ですからね。


 その証拠に、シスター・エマなんてグッスリです。


「ほら、エマのように堂々と眠って結構ですから。わたしはいいので、あなた方は明日のために寝なさい」


「わかりました。疲れたらおっしゃってください、クリス先輩」


「はいはい。おやすみおやすみ」


 後輩たちを、部屋へ返しました。


 さて、書類整理の続きを……おや?


 窓に、小石が当たりました。一度だけではありません。二、三回、窓を石が叩きましたよ。しかもここ、四階なんですが。


 こんな小さい窓に石を正確に当てられる人なんて、限られています。


「国王……」


 ディートマル・ヘンネフェルト国王が、深夜に城を抜け出してきやがりましたよ。呆れて、ものも言えません。


「なんですか?」


 小声で、わたしは国王に声をかけます。まったく、逢引じゃないんですから。


 ニヤニヤ笑いながら、国王はなにやらジェスチャーをします。


「なになに……牛丼を、食おう?」


 またですか。


 先週は、ラーメンでしたね。そのときも、わたしは書類整理係でした。


 あのときは、ホントに大変でしたね。

 隣の都市まで馬車に三時間も揺られて、さらに行列に並んでやっと食べられましたから。


 まあ、急ぎの書類はあらかたまとめ終えましたし、お腹に何か入れて眠りたいですね。続きは日を改めて、手を付けましょう。


 なにより、牛丼の誘惑には、勝てそうにありません。


 ひさびさに男装をして、教会を抜け出します。


「所帯持ちの殿方と、夜中に牛丼デートですか」


 人が見たら不倫ですよ、こんなの。これから何をされるのでしょう、わたし?


「とんでもねえ。単なる食い道楽同士の、会合じゃねえか。デートなんてお優しいもんじゃねえよ。お嬢ちゃんと逢引なんて、こっちが殺されちまう」


 どんな人間だと思われているのでしょう、わたしは?

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