レンコンチップスは、罪の味

 カロリーネさんはまず、包丁でレンコンを薄ーく切っていきます。


 その後ろでは、油がだんだんと熱を持ち始めていました。


 油の中に、さっきスライスしたレンコンを投入します。


 カリカリカリという音が、実に食欲を掻き立てますねぇ。


 おつまみ用として、レンコンチップスは編み出されたようです。


 わたしはポテチはよく食べていますが、レンコンのチップスなんて聞いたことがありません。どういう味なのでしょうか。試してみましょう。


「どうぞ、レンコンのチップスです」


「いただきます」


 最初は一枚だけ。


「うん! 罪深うまい!」


 具がレンコンですから、てっきりヘルシーな食べ物だとばかり思っていました。ですが、これは油全開です。やはり油は、油なのですね。


 熱した油でコーティングしただけで、こうも罪な味になるとは。味付けも、しおとコショウだけです。なのにこの深み。


 ガリ勉優等生と夏休み明けに再会したら、不良になっていたって形容すればいいですかね。ああ、罪深うまい。


 もしくは、クラスをまとめていた生徒会長が、性に奔放なギャルへと変貌を遂げたレベルの驚きですよ。この焦げ加減が、褐色に日焼けしたギャルを思わせます。ああ、罪深うまい。


 油と塩コショウという情熱的な刺激を受けて、レンコンが不良になっちまったい。

「ヘルシーなもんか。こんなのカロリーの化け物だぜ」と、わたしがヤンキーなら言うでしょう。


 夏休み明けにウル王女が、「チョリース」とかいいながら教室に入ってくる光景が目に浮かびます。


「ああ、性の悦びを覚えたのだな」と、クラスメイトたちは勘ぐるのですよ。


「なんです?」


 ウル王女が、訝ってわたしを見つめます。


「別に何も」


 王女の場合は、妄想だけで済むだけまだマシですね。


 なんということでしょう。もうレンコンは、更生できません。どんな神々であっても。不良として、完成されています。


 責任を取って、受け入れるしか。ああ罪深うまい。止まりません。この不良は、食べごたえがあります。


 悪いことは、おいしいのですね。これが悪の味ですよ。罪深うまい。


「ごちそうさまでした。カロリーネさんは、このままこちらにお店を持つおつもりで?」


「いえ。これはプレオープンでして」


 弟子を雇って、その方に任せるそうで。


「ただ、姫のガードを引退したら、こちらでお世話になろうかと」


「いいですね。応援しますよ」


「ありがとうございます」


 カロリーネさんが、頭を下げました。


「ちょっと冗談ではありませんでしてよっ」


 ああ、やはりウル王女は納得できませんか。


「そりゃあわたくしだって、魔法は多少使えます。ですが護衛はずっと欲しいですわ」


 カロリーネさんに、ずっとそばにいてほしい、って言えばいいじゃないですか。


 わたしは、その言葉を飲み込みます。


 今日のわたしは、不良なので。



(海の家編 完)

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