海の家、二軒目
いやあ、昨日は焼肉まで堪能してしまいました。
「で、どうしてあなたまで店を建てているのです?」
後日、わたしはウル王女に呼ばれたのです。
「それはもう、海の家の料理を試食してもらうためですわ」
なんとウル王女も、海の家を始めたのでした。
王女はタンキニという、前から見るとフリル付きワンピースに見えるビキニを着ています。
それだけではありません。なんとステフさんの海の家の隣に店ができているではありませんか。
正確には防波堤の上に建っているので、隣接しているわけではないのですが。
「馴染みであるステフが経営している海の家ですもの。相乗効果は果てしないものとなるでしょう。あちらが焼肉で参るなら、こちらは鉄板焼きで勝負いたしますわ」
それは、甲乙つけがたいですね。競い合っているなら、きっとおいしい料理ができあがるでしょう。
店の外観ですが、席はすべてL字型のフルカウンターです。店主がすべて鉄板を、仕切るスタイルですね。
「お酒のメニューがありませんね?」
ステフさんのお店は、冷たいエールも売りです。
昼から呑むという背徳感も、海の家の醍醐味と言えるでしょう。
「ありますわよ。全部カクテルの名前ですわ」
聞いたこともないメニューがありました。それがお酒の名前だそうです。
「若い女性がターゲットですので、甘いお酒がメインですの」
まあ、下戸の我々には味なんてわからないでしょう。
このお店はお昼に鉄板焼き屋台で、夕方以降にはカクテルバーへと変わるそうです。
「いらっしゃいませ」
厨房に立つ人物に、わたしは目を丸くしました。王女の侍女、カロリーネさんです。
「王女の護衛はよろしいので?」
「いえ。店番をしている間、クリス様にウルリーカ姫の護衛役をお願いしたいのです」
なるほど。
「それでは夏の間、わたしがずっと姫のお守りをするのですか?」
難儀ですね。おいしいものを食べられるから、断ったりなんてしませんが。
「ずっとではありません。一週間ほど」
部下に調理の研修をさせる間だけ、担当してくれとのことです。
「承知しました。ですが、わかっていますね?」
「心得ております。クリス様のお食事は、すべて無料で差し上げます」
安くしてほしいと頼んだつもりでしたが。
これは、責任重大になっちゃいましたねえ。
「姫は外見だけなら超絶美人ですので、ナンパをかわしていただく必要があります。お願いできますでしょうか?」
しつこいナンパ男共をぶっ飛ばせばいいのですね、わかります。
それにしても、ひどい言いようですね。ウル王女の性格を、的確に捉えてはいますけど。
「あなたは、魔法が使えるでしょう? 一人で自分を守れるでしょうに」
「わたくしが本気を出すと、ナンパ相手が消し炭になってしまいますわ」
なるほど。わたしは姫を止める役ですか。
「もちろん。それより、試食の方は」
「今、始めさせていただきます」
待ってました。
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