オチ担当は、王族
「ウル王女、まさかあなたたちが、オチ担当とは思いませんでしたよ」
翌日の夕方、わたしは王様から夕飯に呼ばれました。
「なんの話ですの?」
「連日鍋続きだったので、次も鍋だろうと思っていましたが」
「そういうことですか。実にいい鍋日和でしたわ」
夏が近いので、今のうちに熱々の料理を出そうとしていたそうです。
「何日もお鍋が続いて、結構お腹も膨れているのでは?」
「まだまだ」
これからですよ。わたしの鍋日和は。
「それはそうと、珍しい人を呼んだのですね?」
食卓の席には、わたしの他にフレンも呼ばれていました。お城で食事をするのは、ずいぶんと久しぶりのようです。
「緊張していませんか、フレン?」
「大丈夫です先輩。ご心配には及びません」
フレンはわたしとエールとを交互に見ていました。ホントに、気にしなくていいようです。
「実は今回の席は、フレンが提案したのだ。ワシらとともに、食事がしたいとな」
「へえ。成長したんですね、フレンは」
フレンは昔、婚約関連で相手先の王族から手痛い仕打ちを受けました。それ以来、王族の血筋を隠してシスター職に就いたのです。ですが、自分から王族の地に足を踏み入れるとは。
「ただ、フレンは身内だから呼ぶのはアリだとして。こちらの方は」
不思議だったのは、オカシオ伯爵までいること。彼はオタカフェの経営者で、港にカフェを運営しているウル王女とは商売敵です。コトの次第では、ただで帰してもらえないでしょう。
「ワシが呼んだのだ。決して圧迫して商売の邪魔をするためではない。ともに商売のことを忘れて飲もうと誘ったのである」
「お招き、感謝いたします」
さすが貴族ですね。伯爵も臆することなく、堂々となさっています。
「実はワシな、お前さんとこのいちごパフェが大好物でな。ジョギングの際に立ち寄ってこっそり食っておったのだ」
ああ、やりそうですね。あなたなら。
「存じ上げております。王様ほどの巨体はなかなかお目にかかりませんで」
オカシオ伯爵が、笑みで返します。あんたは目立つんだよ、とおっしゃりたいのですね。わかります。
「ほう。そうか。ビビらせてしまっただろうか?」
「とんでもございません。ぜひとも、召し上がってくださいませ」
「よろしく頼む。王宮の菓子も、それはそれですばらしい。だが、庶民の味はまた格別である。人目を避けて、お忍びで通う背徳感を食いに来ているからかもな」
「実に甘美なご趣味をお持ちで」
王様は「ガハハ」と笑いました。楽しそうでなによりです。
まあこの王様、庶民からかなり慕われていますからね。Tシャツ一枚で走っていたら、子どもが寄ってくるくらいですから。
「これ、おいしそうですね」
わたしは、目の前のお鍋に注目しました。
金属製のお鍋の中で、溶けたチーズがコトコトと音を鳴らしています。
「各種のチーズを王家特性のレシピでブレンドした、チーズフォンデュですわ」
これは、期待できますねえ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます