おでんは、罪の味

 野良犬が遠吠えする路地裏に、ハイエルフが一杯引っ掛けています。おでんを肴にして。


「えらいところにいますね、シスター・エンシェント」

「ちょうどいいところにいましたね。こちらに座りなさいな」


 腰を浮かせて、わたしが座るスペースを作ります。


「わたし、お酒は飲めませんよ」

「いいじゃないですか。お説教がしたいわけじゃありませんから」


 では遠慮せず、着席しました。


「ノンアルコールのものは?」

「炭酸ならあるよ。砂糖抜きの」

「では、彼女にはそれを。私にはお酒をくださいな」


 金属製のグラスを、エンシェントは大将に差し出します。


 大将は金属グラスにお酒を入れて、お湯の中へつけました。それで温めるのですね。


 わたしには、炭酸がグラスに注がれて出てきました。 


「好きなものをお頼みなさい。今日はごちそうしましょう」


 それはありがたい。


「大根、たまご、じゃがいも、ひとつずつください」


 店主のおじいさんが、オーダーしたものをくれます。


 おお、もう大根からして味が染み込んでいました。これは期待できます。


「いただきます……罪深うまいっ」


 アッツアツでホックホクですね。吸い込む息ですら、おダシが染みておいしいです。ここに、辛子をのっけて。ほら、また罪深うまくなりました。このピリッとしたアクセントが、平凡な大根をドレスアップしたヒロインに仕立てます。


 お次は、たまごを。おおうう。罪深うまい。何かが生まれそうです。たまごに辛子がまたガツンときますよね。


 ホクホクのじゃがいもも、たまりません。


 お鍋を堪能した後なのに、どうしてこうも入るのでしょう?


「ありがとうございます。ここにはいつもお一人で?」

「パトロールのシメですよ。屋台が出ているときは、入ります」


 なんだか、シスター・エンシェントが言うと「味の番人」まで努めていそうですね。ずっとおいしいものを提供しているか、チェックしに来ている感じです。


「まだまだたくさんありますから、お食べなさいな」


 もちろん、遠慮はしません。


「こんにゃく、ちくわ、丸天をください」


 ホッカホカのこんにゃくが、テーブルに置かれます。


 さっそくひとくち。


「おくおく。罪深うまい!」


 グニグニした食感が、最高です。ちゃんと切れ目が入っているのが、うれしいですね。


 ちくわも、ダシが染みていて濃厚です。


 で、なんといっても丸天ですよ。


「いやあ、罪深うまい」


 ささやくように、言葉が漏れました。


 同じ練り物なのに、ちくわとは食感がまったく違います。こちらは、ふわっとしていますよ。上げてある練り物だからでしょうか。多少は油っぽいのですが、スイスイ食べられちゃいます。


「スジ、がんも、ロールキャベツ、ソーセージをください」


 またしても、お皿がおでんパーティになりました。


 スジ肉ですよ。罪深うまいですね。おでんの肉と言ったら、スジといっていいでしょう。脂身のトロッとしたところも、繊維質バリバリな肉部分も、どこを食べてもおいしいんです。


 続いて、がんもどきを。はい。これはすばらしい。お豆腐ベースだから、もっと淡白な味だろうと思っていました。それがどうですこの自己主張。辛子との相性もバツグンです。


 変わり種の、ロールキャベツを行きましょう。


「んっ。罪深うまぁい」


 なんでしょう。野菜で巻いたシューマイを食べている気分です。これ、すごいおいしい。


 最後は、ソーセージをいただきました。あああ、罪深うまい! おダシがソーセージの裂け目に溶け込んでいて、肉汁とベストマッチですね。


「ごちそうさまでした」


 わたしもパトロールしましょうかね。こんなおいしいお料理がいただけるなら。


「あなたが外回りなんてしたら、国じゅうの屋台が店じまいしますよ。空になっちゃって」


 心を読まないでくれますか?

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