ギョーザ鍋で、罪をともに

 ギョーザ鍋が、できあがりました。


「はああああ。香りが。もう香りからして罪深うまい」


 約束された、美味の香りです。グツグツ鳴る音までおいしい。


「いただいてちょうだい」

「はい。いただきます」


 この大きなギョーザを、責任を持って食べましょう。わざと大きくしたのではありませんよ、断じて。


 はむ……はい。わかっています。罪深うまい。


 罪が溶けています。


 程よくニンニクが効いていて、辛味ダレに混ざり合っていますね。


「うん、うん、うん……」


 言葉が出ません。噛みしめるのにアゴを使いたくて、口が会話を拒絶しました。それだけの美味なのです。


「んふふ」と、自然に笑いだけが漏れました。


 タレがお鍋のダシを吸って、これまた深い味になっています。ギョーザスープに早変わりですよ。こんなの、どの店に行っても味わえません。


 具材はギョーザだけ。箸休めのお野菜は、全部ギョーザのアンにしました。なのに、どうしてこんなにおいしいのか。どんな宝玉よりも、このギョーザは価値があります。たまりませんね。 


「うめえ。必死で獲ってきた甲斐があったぜ」


 ミュラーさんが、エールをぐっと煽ってギョーザを流し込みます。


 これだけで、もう罪深うまいって伝わってきました。


「はふはふ、はあああ」


 ホリーさん、子どもらしからぬだらしない顔を見せます。

 この子は将来、お酒飲みになるのでしょうね。


 それだけ、この鍋がおいしいのです。仕方がありません。


「私も、いただこうかしら」


 ラナさんが、グラスにエールを注ごうとしました。


「よし。注いでやる」


 エールの小樽を、ミュラーさんが手で持ち上げます。


「ありがとう。久しぶりのお酒なの」


 グラスの中に、並々と冷たいエールが。


「ああああ、おいっしいい」


 ラナさんが、珍しく大笑いしました。


 食べっぷり飲みっぷりが、まさに夫婦そっくりです。


「あなたは、飲まないのよね? ライスなんてどう?」

「ありがたく、ちょうだいいたします」


 来ました。ここにきて白いライスが。


 ああ、ああもう罪深うまい。

 食べる前からもう罪深うまさが。香りが混ざり合ってわたしをダメにします。

 で、食べるとさらに罪深うまい。


 ミュラーさんたちとは、マーボードーフを一緒にいただきましたが、このギョーザもライスにベストマッチングですよ。


 なんて楽しいパーティなのでしょう。


 わたしとホリーさんはお酒をいただいていませんが、満足です。


 いやあ、最高でした。


 こんなに幸せになっていいのでしょうか?


 遅くなってしまいました。


 シスター・エンシェントに怒られそうです。


「いいところに来ましたね」


 うわさをすれば、ですかね。


 そのハイエルフのシスターは、おでんの屋台にいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る