シスター・ウルリーカ

 さて、ウル王女のシスターぶりを発揮していただきましょう。


「実は、ダイエットに失敗しまして」


 もはや常連ですね。例の主婦の方です。なんでも、ママ友と外食に行ったそうな。


「そこは、鍋を出しているお店でして。鍋って太るってイメージがあったので、最初は断ったのです。しかし、辛くて汗をかくからとススメられて」


 その料理は【トムヤムクン】という、聞き慣れない料理でした。


「食べてみたら程よく辛味があって、酸っぱいんです。でも慣れてくると、その酸味がクセになるというか」

「お酒が合いますのね?」

「はい。エールが止まらないんですよ!」


 確定ですね。彼女は食事ではなく、断酒したほうがいいです。


「やせたければ、断酒なさい」


 わたしの考えを読んだのか、同じ回答が。


「は、はあ」

「あなたがやせない原因は、お酒に依存しているからですわ。お酒以外の趣味をお持ちになって。とはいえ、すぐに完全に断つことは不可能ですわ。一杯ずつでもいいですから、お試しになって」


 まあ、彼女にしてはまともなのでは。


「ありがとうございました」


 主婦の方は、ゆうゆうと帰っていきます。もちろん、お店の位置を聞くのも忘れません。


 この辺りは、カレーラス子爵のハーブ店が近いですね。


 あ、もうおひと方、お見えになりました。こちらの女性は、旦那との関係がうまくいかないとか。


「他人を変えようとするから、苦しむのですわ。まずは、ご自身の考えを変えてみなさっては? ほんの少しだけ優しくしてみるとか」

「でも主人は、私に優しくしてくれません」

「見返りを求めてらっしゃるからですわ。『わたくしはこんなにも奉仕していますのに!』と、お考えなのでは」

「それは、そうかもしれません」

「別に男を立てろ、とは申しておりません。見返りとは案外、別にほしくないときに来るものですわ。わたくしも学生の自分、意地汚い友人に冬季限定お菓子を分けましたところ、二年後に昼食をごちそうしてくださいましたわ。そんなものですわ」


 それ、わたしのエピソードですよね。意地汚いって。


「ご主人があなたを愛してらっしゃらないなら、別です。けれど、お金を入れているとか、子どもは大事になさっているとか、わずかながらご配慮なさっているはず。あなたが好むお店へ食べに連れて行ってくださるとかも、あるでしょう。小さな点を見逃さずに、お褒めなさいな。それで反応がなければ、もう脈なしですから」

「ありがとうございます。試してみます」


 キレイにさばきますね。

 もっとぶっ飛んだ解決法を伝授するものだとばかり。


「お疲れ様でした。見事なシスターぶりでしたね」

「ええ。あなたならどう答えになるか、シミュレートしてお話して差し上げたに過ぎませんわ」


 わたしの意見のトレースだったんですね。


「的確かどうかはわかりません。男性ならともかく、女性は話を聞いてもらうだけでも、悩みの七割は解消されると聞きます。サンドバッグぐらいが、ちょうどよいのではよろしいかと」


 シスター服から、ウル王女は元のドレスに着替えます。


「では、参りましょう。シスターエンシェントに、外出許可をいただかないと」

「え、どちらまで」

「もちろん、これからトムヤムクンをいただくのですよ」

「そんな都合よく許可なんて」


 そう思っていたら、カレーラス子爵がお見えになりました。相変わらず、ムキムキダンディガイですね。ハーバリスト系魔法使いなのに。


「あらあ、終わっちゃった? ザンゲしに来ようと思ったのに」

「何をです?」

「美しすぎて、申し訳ありませんって」

「え、ええ」


 神にはわたしから伝えておきましょう。


「じゃあクリスちゃん、行きましょ」

「どちらまで?」

「トムヤムクンのお店。お姫様もいらして。アタシのハーブがスープに溶けて、どれだけ美容に効果があるのか調査しに行くの」

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