シメラーで、罪を煮込む

 話が盛り上がる中、モツ鍋が減っていきます。


 わたしたちの鍋が、どうやら最初になくなりそうですね。


 ドレミーさんが、いるからでしょう。さすがドラゴンという食欲です。


 しかし、当のドレミーさんはわたしに視線を送っていました。


「どうされました?」

「ここまで食べる人は、ドラゴンの中にもいなかったなーと思いまして」


 いやいや。わたしがそんなに食べるわけないでしょう。ドラゴンより食べるな人間とか、聞いたことありませんよ。


「気のせいですよ、きっと」

「でも、あなたならありえますわ。シスター。この鍋なら、一人でも食べ切れましたでしょう」


 ご冗談を。みんなでつつくから、鍋はおいしいのです。独り占めとかは、鍋ではナンセンスでしょうに。


 一品が欲しかったら、自分で焼いて食べていますよ。今までもそうでしたから。


 いやあ、モツ鍋最高です。


 コリコリとした食感に、ピリ辛のおダシが合いますね。


 もちろん、この鍋にベストマッチングなシメと言えば。


「麺入れるっすねー」


 ラーメンでしょう。


 ハシオさんが、鍋に乾麺をぶち込みます。


 あああ、もう香りだけで罪! この罪の深さですよ。


 さらに、追いネギ、刻んだ鷹の爪、追加のおダシと鶏ガラスープが入って、味わいがより高みに到達します。


「OKっす」


 ハシオさんが味見をして、ラーメンが完成しました。


 ホルモンのエキスが、大量に絡んだ麺です。どれだけの罪を内包しているかなんて、聞くまでもありません。


「ええ、ええ。罪深うまいですとも」


 独り言も出ますよ。こんなおいしいものなんて。


 すばらしいの一言ですね。過去まで遡っても、ココまでの濃厚ラーメンはめったにお目にかかれません。

 ホルモンの脂が、いわゆる背脂的な役割をしています。口の中でプチプチと暴れて、こってり感が増していきました。


「やみつきになるっすよ、こんなの」


 ズババッと、ハシオさんがすごい勢いでラーメンをすすりました。


「ああ。冷たいエールが合いすぎる」


 ハシオさんとカロリーネさんが、競うようにエールをあおります。


「ごちそうさまでした」


 やはり、わたしたちのお鍋が真っ先に終わりました。


 騎士団の方が、「うわあ」とドン引きした様子でこちらを見ています。そんなにですかねえ。


「午後は予定があるか?」

「ないっすよ。今すぐお稽古するっすか?」


 指を鳴らしながら、ハシオさんが白い歯を見せました。


「いや、今日は酒が入っている。思い出を語り合おうじゃないか。明日の朝一番に、稽古で勝負だ」

「うっす。負けないっすからね。女になって一皮むけたオイラを、堪能するっすよ」

「んぬう。私だって!」


 カロリーネさんは、婚前交渉がうらやましいごようすで。


「ではカロリーネ。明日の夕方にいらして。お父上との会食には間に合わせますから」

「はっ。ごゆるりと。姫様。クリス嬢。姫様をお頼み申し上げます」


 わたしは、目礼だけで済ませます。


 かしこまらなくても、大丈夫ですよ。いつものことですから。


おいしかったですわ。ため息が漏れますわ」


 帰り道、ウル王女がうっとりした顔になります。心なしか、コラーゲンが顔に出ているような。


「ソレ以上ぷるんぷるんの美肌になるおつもりですか?」

「何をおっしゃいますの。クリスのほうが断然プニプニですわ」


 王女が、わたしのホッペを軽くつつきました。そんなにプルンプルンですかね? 教会での食事で、なるべく節制しているつもりなのですが。


「今日は教会で、悩める庶民の相談に乗ってもらうことになりますよ」

「心得ておりますわ。修道服を貸してくださる?」

「フレンの分があります」


 さすが姉妹。ぴったりじゃないですか。背丈がやや高いので、ヒザが見えてしまっていますが。王女って案外背丈が高いのですよね。


「では、シスター・ウルリーカのザンゲ室、開門いたします」

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