モツ鍋は、罪の味

 そんな感じで、ざっくり二時間ほど騎士団の訓練を終えました。


「うっす、休憩っす」


 ハシオさんが、シャツを引き上げて頬の汗を拭います。こういうところは、婚約なさっても変わらないんですね。見事なシックスパックが、スポーツブラとともにあらわに。


「ちょっとハシオさんっ」

「おっと。そうだったっす。嫁入り前だったんすよねオイラ」


 ようやく、ハシオさんが恥じらいを見せました。ちっとも女性っぽくありませんが。


「お食事ができましたわ!」


 従者のカロリーネさんとともに、お鍋を持ってウル王女が現れました。何をしに着たんだろうと思っていましたが、王女は騎士団の労いに来たのですね。


「どうぞ。国王から差し入れの、特注モツ鍋ですわ」


 こちらはモツ鍋ですか。昨日に続いて、鍋続きです。しかし、春は肌寒いですから、お鍋は恋しいですね。


 真っ白いホルモンが、鍋の中で踊っています。ダンスパートナーは白菜とネギ、舞茸ですね。しらたきのドレスを着て、ホルモンは身体を弾ませていました。沸騰する音が、実にリズミカルですね。


「なん十人分あるんです?」

「ざっと、三〇人前だそうですわ」


 このお鍋も、業務用の特注だそうで。壮観です。でも、食べ切れてしまいそうな不思議さがありました。


 そのお鍋が、ひーふーみー、五つあります。


 でもって、我々は五人だけという。


 わたくし、王女、ハシオさん、カロリーネさん、で、どれみーさんです。三〇人前ならペロリでしょ、とか思われているのでしょうか? ライスください。ああ、どうも。


「みなさん、国王からの温情、いただきましょうっす」

「はい。ではいただきます」


 あはは。罪深うまい。


 笑っちゃうくらいのおいしさです。ホルモンの脂が溶け込んだクドいお鍋が、くたびれた身体に染み渡っていきました。ちょうどいい味わいになっています。ピリッとした辛味のダシも、ホルモンにマッチしていました。


 ああハシオさん、もうお酒で突撃しちゃいましたよ。これは、お酒でしょうね。


 我々は、ライスで追いかけてみましょう。


 おおっと、罪深うまい。


 コメで追いかけると、もっとドッシリとしてしまうと思いました。ですが、ちょうどいい辛味になります。


「ハムハム。おいしいですー」


 ドラゴン役のドレミーさんも、うれしそうに食べていました。


「猫舌なんですね。ドラゴンなのに」

「ドラゴンに、猫舌もなにも関係ないですよぉ。熱いのは熱いんですぅ」


 ドレミーさんが、ハシオさんにお酌されて冷たいエールをいただいています。


 カロリーネさんが、険しい顔でハシオさんをご覧になっています。これは、うらやましがっていますね。お酒が好きなようです。


「いいのですよ、カロリーネ。今日はクリスの教会に泊まりますから。翌日に迎えにいらして」


 あらあ。自由ですね、王女は。まあ、わたしは許可しますが。


「その代わり、午後はシスター・ウルリーカとしてお仕事してくださいね」

「心得ております。昨日の今日で、二度もタダメシを食らうつもりはございませんの」


 そこは、義理立てなさるんですね。


「ありがとうございます。王女殿下、シスター。いただきます」

「うっす。どうそ、カロリーネ」

 ハシオさんが、カロリーネさんのカップにエールを注いであげました。

「すまぬ、ハシオ。それと、結婚おめでとう」

「ご返盃へんぱいっすか。うっす。感謝っす」


 ペコペコと頭を下げながら、ハシオさんがカロリーネさんにカップを差し出します。


 おやまあ。カロリーネさんとハシオさん、呼び捨てで語り合っていますね。


「二人はお知り合いですか?」

「同門です。同じ師によって鍛えられました。学園も同じです」


 聞けば、二人は同い年でライバル同士だったとか。

 そういえば、歳上でクラスも違うのに、カロリーネさんは王女の護衛をさせられていたんでしたっけ。


「今日も海鮮鍋のつもりが、ハシオのやつが魚介ダメらしくて変更になりまして」

「学校でも、毎日のように揉めてたっすよね。『ショートカットで、キャラ被ってんだよ』つってね」


 あらあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る