ドラゴン討伐想定訓練

 先日の雑炊は、実に素晴らしいものでした。


 あっさりしているのに、すべてのダシが溶け込んでいるという、罪深うまさマックスなお味です。


 今日は、騎士団の訓練に呼ばれました。また魔物討伐のシミュレーションです。


「またあの着ぐるみを着るのでしょうね」

「ハシオから、相当愉快な格好だったと聞きました。楽しみですわ」


 なぜか今日の稽古は、ウル王女も一緒でした。 


 また、訓練場もいつもの城内部の兵舎ではなく、山の向こうにある草原だとか。


 なんと、わたしの他にもう一人指導役がいます。赤いショートヘアの少女が、食い込みの鋭い水着風のレオタードを着て柔軟体操をしていました。身体がやわらかいですねえ。


「おや、ドレミーさんっ!」


 魔王ドローレスの配下である、レッドドラゴンさんです。


 普段は燕尾服の男装ですが、動きやすいトレーニング服もまた似合いますねぇ。ボーイッシュ巨乳、アリです。


「あなたも、トレーナー役に呼ばれたので?」

「そうなんです。社会勉強だから、なんでも経験しておけと。ついでにコミュ障も直せと」


 ですね。ぼっちキャラでしたからね。「街での仕事が多いから、いろいろな人と話してこい」と、ドローレスから指示が飛んだそうで。


「アタイが父に頼んで、呼んでもらったんすよ。モンスター系で強い相手はいないかって」


 女騎士ハシオさんは、そう言いました。マニッシュ、つまり女性的な一面が残った男装で、こちらも魅力的です。


「わたし一人では、もう力不足だと?」

「いえいえ。ドラゴン対策を教わりたく」


 なるほど。一度、ドラゴンを退治していますからね。わたしは。


「わかりました。ではわたしは見ています。後ろから指示を出すので、その通りに動いてくださいね」


 わたしは後方にまわり、全体を見渡します。


「では、おねがいします」

「はい。いきまーす」


 ドレミーさんが、ドラゴンに変化しました。相変わらず大きいですね。あの水着は、ウロコの変化したものだったようです。では今まで、ほぼ全裸だったワケじゃないですか。


「え、っと、ブレスの方は? 一応、出す方向で行こうかと思うのですが?」

「加減は、ナシの方向でOKっす。手心が加わると、訓練にならないっす」


 あくまでも、驚異を想定したトレーニングであると。


「では、容赦しませんので」


 いいでしょう。いざとなったら、蘇生までならこちらでお手伝いしますかね。


 ボエエエ、とドレミーさんがブレスを吐きます。


 灼熱の炎に、騎士団が逃げ惑います。


「シールド班は、もっと前に行くっす! 後ろが黒焦げになるっすよ!」

「そうは言っても、盾が溶けちまいますぜ!」


 騎士隊が、シールドに氷の魔法を施して、強度を上げつつ熱を防ぎました。


 とはいえ、付け焼き刃に過ぎません。あっという間に、盾を覆っていた魔法が剥がされます。


「そういう訓練っす! 盾が破壊されないために、スキルを磨いているんすから!」


 ハシオさん、張り切っていますね。前回のタコ戦で、騎士団の不甲斐なさを痛感したそうで。本格的な訓練の必要性を、上層部に訴えていたのでした。


 ちょっち、平和になりすぎたみたいですよ、ご先祖。人類種の天敵最右翼が、人類にトレーナーをよこすくらいには。


 訓練終了まであと三〇分というときに、騎士隊は吹っ飛びました。残念。


「ムリっすか」


 ハシオさんが、単独でドレミーさんにサーベルで切りかかります。


「はふう」


 ドレミーさんが、変身を解きます。ぶっ続けでブレスを吐いたから、ガス欠でしょうか?


「人間形態といえど、油断できないっす。勝負っす」

「ふわい」


 手足にウロコを残し、ドレミーさんはハシオさんの刺突を防いでいきます。


「どうしました、ドレミーさん?」


 二人の至近距離まで駆けつけ、わたしは審判を務めました。ヒマですし。


「おなかが空きました」


 わたしもなんですよ。見ていただけなのに。

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