初代からの因縁

『ごおおおお! 見つけたぞ、シスター・クリス! 我が積年の恨みぃ!』


 タコが、なんの指示もなく語り始めました。


「エマ?」


 わたしはエマの方を向きます。


「あたしじゃないわよ!?」


 ブンブンと激しく、エマが首を振りました。胸まで揺らすのは、やめていただけませんか?


『シスター・クリス! お前のせいで、わたしはあんな暗い場所にいい!』

「何を言っているのか、よくわかりませんね。わたしはあなたなんて知りません」


 第一、イカだかタコだかの化け物を倒したのは、わたしではありません。たしか、ソナエさんやヘルトさん、そこにいる魔王ドローレスのはずです。


『いや、たしかにお前だ! シスター・クリス!』


 わたしは、首を傾げました。どうも、わかってもらえないようですねぇ。


「あんたは知らなくても、もうひとりのシスター・クリスのことなら、ワタシも知っているね」

「あっ」


 ドローレスに言われて、ようやく気が付きました。


「あいつは初代シスター・クリスによって封印された、アタシの血族だよ。もう魂だけの存在になっちまったけど。そいつが、タコ焼きのタコに取り憑いたんだろうね」


 なるほど、そうでしたか。初代クリスの方に、用事があるのですね! まだクレイマー家に嫁ぐ前の、クリス・ターンブルに。


「あんたのことを、初代だと勘違いしているようだね?」

「そんなに、初代とわたしって似ているんですか?」

「生き写しだよ。なあイネス?」


 シスター・エンシェントに、ドローレスが話しかけます。


「ええ。そうですね。初めて彼女を見た時は、ビックリしましたよ」


 そんなに似ていたのですか。初代クリスとわたしは。


 一度、エンシェントに初代とわたしの違いを聞いたことがありました。


「まだまだ。初代に遠く及ばない」と言われましたよ。


「あの人の食欲には、肩を並べつつありますね」


 なるほど。健啖家というのはわかりました。


「どうすれば、倒せますか?」 

「弱点は、頭頂部の紋章だ。そいつに魔力を込めた拳を叩き込みな!」


 ドローレスが、弱点を見つけ出してくれました。


 わたしは跳躍して、弱点を目視します。


『なめるな、クリス!』


 相手も、八本の足をわたしに放ちました。


 シスター・エンシェントが加勢に入り、触手を叩き落とします。


「今です、クリス・クレイマー」

「ホワッタアアア!」


 浄化魔法を拳に集めて、タコに叩き込みました。


 タコを操っていた悪しき紋章が砕け散ります。


『おおおおおわあああああ!? ワタシが消える。また、千年以上の眠りに……』


 プシュー、と気の抜けた音とともに、タコが意識を失いました。縮んでいき、普通のタコへと戻っていきます。それにしても大きいですが。


『一丁上がりだね』


 わたしがポーズを決めると、歓声が上がりました。どうやら、アトラクションに見せかける作戦は成功に終わったようです。


 これ以外にアクションシーンはありません。

 あとは、お芝居を楽しんでいただきましょう。


 初代クリス役に扮したフレンが、イネスと別れるシーンです。


『これで、旅は終わりだ。あんたは見事に、使命を果たした。立派な女になるんだよ』

『おししょう、わかれるなんてつらいです』

『ついてくるんじゃないよ。あんたには、あんたの幸せがあるんだ。それを掴むんだね』

『もっと、けいこをつけてください』

『参ったねえ。あんたは十分、強いさ。基礎はすべて、叩き込んだつもりだよ』


 フレンが、頭をかきます。


『さっきのタコだって、やっつけたのはおししょうじゃないですか』

『あれは、なりゆきじゃないかっ』


 まあ、アドリブまでこなしますか。この子、末恐ろしいですね。


 会場も、盛り上がっています。


『仕方ないねえ。あのタコを仕留められるくらいには、強くしてやろうかね』

『ありがとうございます、おししょーっ!』


 幕が下りるタイミングで、わたしはナレーションをします。


「こうして、ハイエルフのイネスはシスター・クリス・ターンブルの元でさらに修業を重ね、立派なシスターとなったのです」


 なお、シスターとなったイネスを見届けたクリス・ターンブルは、クレイマー家に嫁ぎました。

 今でも、クレイマー家は発展を遂げています。

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