闇の存在に取り憑かれたタコ

 巨大タコが、会場を破壊しようと出てきました。


 観客が、王らに誘導されて逃げていきます。


 フレンや王女たちは、騎士たちに安全な場所へと移動してもらいます。


 これは、会場のみなさんに大量の料理を振る舞うチャンスですよ。


 ただこれだと、少々ド派手にやらかし過ぎてしまいますね。このままでは、せっかくつくったセットが台無しに。


 と思っていたら、モンスターの動きが止まりました。

 電流のような現象に阻まれ、先へ進めません。


「おやおや、メシの顔になっているじゃないか」


 シスター・ローラこと、魔王ドローレスが、いつの間にか現れました。


 その側には、大量の野盗共が縛り上げられています。


「あのモンスターは、あなたの差し金……なんてワケありませんね?」

「もちろんさ。むしろ狩りに来た」


 腕を組みながら、魔王ドローレスは様子をうかがっていました。


 なんでも、禁忌の精神生命体を封じた書物が、闇市で出回っていたそうです。それによって、あの怪物は呼び出されてしまったのだとか。


「書物というのは?」

「回収した」


 それを手に入れた商人が、今回の騒動を引き起こしたそうです。ドローレスの手によって、役所にしょっぴかれていったとか。


「一度でてきちまったら、やっつけるしかないよ」

「食べても大丈夫ですよね?」

「あんた、あれを食うつもりなのか?」

「食べられるなら」


 わたしが言うと、ドローレスは一人で大笑いをしました。


「面白いね、あんた。いいよ、勝手にしな。図体がでかいだけで、本性はただのちょっとでかいタコさ」


 触媒が、大型のタコというだけだそうです。中にいる精神生命体さえ倒せばもとの大きさに戻るのだとか。なら、いけそうですね。


「結界は張ってある。派手にやりな」

「ええ。そのつもりです」


 まあ、全力を出せば勝てるかなと。


「シスター・エマ、ちょっと」

「どうしたの、クリス?」

「あの怪物は、あなたが操っていることにしましょう」

「どういう意味?」

「アトラクションと思っていただきます」


 臨場感を出すために、演出しているのだと思わせようと思いました。


「衣装は、これをお使いください。悪い魔法使いとの兼役です」


 大胆な魔法使いの衣装を、エマに羽織ってもらいました。


「いいわね。ちょうど、お芝居でチョイ役しかもらえなかったから、退屈していたのよ」


 エマも乗り気です。


「フレン、お芝居を続けてください」


 わたしの唇を、フレンに読んでもらうことにしました。即興劇です。


「ポーリーヌさんは、エマの役をお願いします」

「どんな役なのです?」

「このタコを召喚した、悪い魔法使いです」

「危険ではありませんか?」

「このくらいの大きさなら、勝てます」


 ポーリーヌさんを安心させて、劇を再開しました。


『よくもまあ、とんでもないラスボスを用意してくれたもんだねぇ』

『シスター・クリスよ。魔法使いと僧侶、どっちが強いか決着をつけようじゃない』


 フレンとポーリーヌさんが、お芝居で雰囲気を出してくれます。


 もちろん、シスター・クリスの正史に、こんなやりとりはありません。悪い魔法使いとは戦ったことはあるでしょうけど。


 あとはアドリブで戦闘です。


 わたしを潰そうと、タコが足でストンピングをしてきました。


「ホワタァ!」


 キックだけで、タコの足を打ち上げます。


 巨体が優位だと、思っていたのでしょう。タコが困惑していました。


「ホオオワッタ!」


 わたしは跳躍して、タコの眉間にカカト落としを食らわせます。


 ですが、弾き飛ばされました。ブヨブヨの身体には、あまり通じていないようで。


『やるねえ! けど、そんなノロマじゃわたしを捕まえられないよ!』


 タコ足が、わたし腕や脚を絡め取ろうとします。


「ワチョウ、ホワッタ!」


 蹴りや手刀で、タコの足を切り裂きました。


 ですが、タコ足はどんどんと再生していきます。


 キリがありません。


 まさか、ドローレスのときみたいに「歌で仕留めろ」とかいいませんよね?

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