スタントシスター

 わたしは早着替えで、シスター服に身を包みました。


 本来は、ここで初代クリス役のフレンが登場する場面です。わたしは殺陣シーンになったら、フレンと入れ替わる予定でした。


 が、フレンにここを任せるわけにはいきません。戦闘慣れしているわたしが参ります。


『やあやあ。これはいいお客さんじゃないか』


 わたしの口に合わせて、フレンがセリフを言いました。前もって作ったセリフとはずいぶん違いますが、仕方ありません。アドリブでつなぎます。


 あくまでも、この誘拐劇もアトラクション、お芝居の一つと思っていただく必要がありました。園児たちが怖がってしまいますから。


 もしトラブルが発生したら、この舞台は台無しになってしまいます。


 それを絶対に避けなくては、モーリッツさんは各方面から援助を受けられなくなってしまいますからね。


「んだぁテメエは? オレたちをブル盗賊団と知っててケンカを売ろうってのか?」


 ブル盗賊団ですか。モンスターばかりで構成された一団ですね。かつて幅を利かせていたキャプテン・シーハーが牢屋に入れられたことで、事実上のナンバーワンになったという組織です。


 繰り上がりでトップになった程度の実力ですか。


「フッ」


 わたしは、セリフにない嘲笑を浮かべました。


「テメエ、ナメてんのか!」

『ナメてんのは、そっちだろうさ。シスターだと思って甘く見ているんじゃないよ』

「こしゃくな。テメエから血祭りに上げてやるぜ!」


 肉切り包丁のような刀を、盗賊はわたしに振り下ろしてきます。


「な……」


 わたしは、片手で肉切り包丁を受け止めました。そのまま受け流して、肩をみぞおちにぶつけてあげます。


 モンスターが、目を回しながら吹っ飛びました。これでまず、一体が片付きます。肩を当てた際に、人質も無事に助け出しました。


『人質を盾にしながら攻撃してくるからだ。スキだらけなんだよ』


 園児たちが、わたしの戦いぶりを見て呆然としています。


 うーん、どうしましょうかねぇ。


 本来なら、少しダメージを受けてしまうほうが、園児たちが興奮して刺激的です。ヒーローショーって、ちょっと負けそうになるっぽいところがポイントみたいだと教わったので。


 しかし、そんな悠長なことは言っていられません。


 この襲撃はガチ。ならば、こちらもガチで。


「て、てめえ!」


 もう一人は、人質を放して攻撃してくれました。


 バカは、御しやすいですね。


「甘いです」


 今度は、わたし自身の声で相手につぶやきます。


 人質を解放した野盗など、まとに等しいのに。


 園児がウル王女の腕に収まったのを確認し、わたしは拳に力を込めました。


 連続パンチを、盗賊に打ち込みます。園児たちを怖がらせましたからね。その分痛めつけます。


 タンコブだらけになった野盗が、ヒザから崩れ落ちました。


 いや、ちょっとやりすぎましたかね?


 会場の方を見ます。他の場所が気になったからでした。


 あれだけのタンカを切って、現れたのです。きっと別働隊がいるはず。


 よかった。観客席の奥で、ハシオさんと国王がサムズアップをしています。どうやら、片付いたようですね。


 国王の隣で、大量の盗賊団を縛り上げている女性がいます。なんと、王妃でした。


「ふ、ふざけるんじゃねえ!」


 最初にやられた盗賊が、這って舞台に現れます。


 なにやら小瓶のような物体を取り出し、コルクを開けました。


 紫の煙が、モクモクと上がっていきます。


「お前たちは、もうおしまいだぜ。この盗賊団を怒らせたらどうなるか。思い知るが――」

「てい」

「がくっ」


 フレンが盗賊の頭を蹴り飛ばし、ささっと舞台袖に逃げていきました。ナイスです。あなたはそこで隠れていましょうね。


 さて、ナニが出てくるのやら。


 五メートルくらいはあろうタコの化け物が、会場を破壊せんと現れました。


「おお、これは」


 いい食材が、手に入りそうですよ。

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