予想外の展開

 えーっ、本番が始まりました。


「さ、え、選ぶんだ、イ、イネスよ!」


 シスター・フレンが、早くもトチっています。あれだけ練習したのに、セリフが頭に入っていないような素振りですが。緊張しているのでしょうね。


 ここには、姉のウル王女もいます。


 しかも、会場には王様までいるではありませんか。すごい後ろの方ですが、「I LOVE うどん」なんて変Tを着て着席しています。


 あんなクリーチャーがいたら、そりゃあアガリもしますよ。まして、相手は肉親ですし。


「うわ、なにをする! せっかくフレンの花舞台だというのに」

「だからです。もうちょっとすみっこの方で鑑賞してください」


 ウル王女に似た若い女性に、王様が引っ張られていきます。あの方が、お妃様でしょうか。はじめて見ましたよ。


 これでようやく、フレンが落ち着きを取り戻しました。お芝居が再開されます。


 フレンの演技は見事なもので、先程のオドオドは何だったのかと思わせました。


「ありがとうっす、みなさん」

「ハシオさん」


 パークの警備を担当しているハシオさんが、あいさつに来てくれます。


「ですが、気をつけるっす。モーリッツさんの成功をねたんだ商人が、このパークの邪魔をしようと画策しているらしいっす」

「それは、のっぴきなりませんね」


 もしなにかあれば、動けるようにしておいたほうがいいですかね。


 とまあ、何事もなく進行していきました。


 で、あっというまにクライマックスです。


 イネス役の少女が、海賊にとっ捕まってしまいました。クリスがモンスターと戦っている間に、輸入品の警備を任されていたのですが、モンスターに捕まってしまいました。


「さあ、白状するんだよチビスケ。輸入品はどこにある?」


 さすがウル王女、様になっています。どこからどうみても、海賊ですね。悪党っぷりが包み隠しきれていません。


 イネス役の少女が、ブンブンと首を振ります。


「食料は渡さない!」


 彼女も、一人前のモンクとして訓練を積んでいました。その力を、海賊相手に振るいます。


 しかし、そこは台本通り。イネスはすっ転びました。


「おう、お頭ぁ。人質を増やしたら、この子も輸入品のありかを吐くんでねえかぁ?」


 ゴツイ海賊役のポーリーヌさんが、独特の口調でウル海賊長に提案します。こんな役柄も、できるんですね。

 名女優だけあって、さすがの貫禄を見せます。彼女の役が、一番安定していますね。大丈夫なのでしょうか。女優のムダづかいになっていなければいいんですが。


「そいつは名案だな」


 ウル王女は迫力こそすごいんですが、棒読みです。


「おい、そこのガキを二、三人連れてこい」

「はっ」


 ウル王女のお側役であるカロリーネさんが、海賊に扮して会場から子どもたちをさらってきました。


 子どもたちは本気になって怯える子もいれば、ステージに上がれて喜んでいる子まで。みんな、様々な顔を見せます。




 突然、ドタドタ、とすさまじい足音が。



 オークっぽい人たちとライカンぽい人たちが、会場席から現れました。観客の子どもたちを奪い去ります。



「グヘヘ。こいつらが幼稚舎のガキどもか。高く売れそうだぜ!」

「ソレより、今食っちまおうぜ」


 どうも、役者さんにしては妙ですね。


「なんですかあなたたちは。やめなさい!」


 ウル王女が、役割の口調を忘れてオークたちに立ち向かいます。


「おっと」


 オークが、剣をブンと振りました。


 建物のセットが、真っ二つに。


 これは、本物ではありませんか。


「動くとガキの命はねえぜ! お姫様よ!」


 どうやら、こいつらがハシオさんの言っていたヤツラで間違いないようですね。


「姉さん!」


 わたしの側にいたフレンが、ステージに上がろうとしていました。


「待ちなさいフレン」

「クリス先輩!」

「あなたは、わたしの声をお願いします」


 ここから先は、スタントウーマンの仕事です。

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