差し入れのカツサンドは、罪の味

「みなさん、お疲れ様でした。こちら、召し上がってくださいな」


 ウル王女が、差し入れでサンドイッチを用意してくれます。白パンにハムという、教会ではまず食べられない豪勢な食事ですよ。


 いやあ、まったくもって罪深うまい。


「シスター。あれだけ動いて、よく食べられますね」


 後輩のシスターが、わたしの食べっぷりに舌を巻いていました。


「胃袋だけは、昔から丈夫なのです」


 数分間、ほぼ休み無しで飛んだり跳ねたりしていましたから、お腹がペコペコなのです。


 このカツサンドもいただきましょう。


「おうっふ、罪深うまい!」


 不意打ちでした。このソース味は。実に濃く、実に茶色とうとい。


 茶色と言えばカツですが、このカツは。


「これ、モーリッツさんとこのカツじゃないですか?」

「やはりあなたには、わかりますか。そうです。モーリッツさんのお店のトンカツを、分けていただきましたの。おいしいでしょう?」


 もう、おいしいのなんのって。


 分厚いカツを、焼いた白パンに挟んだだけ。具材もカツ以外はしんなりとしたキャベツのみ。


 なのに、この罪深うまさですよ。


 ぜいたくというのは、こういうのを言うのでしょう。


 あと、このツンと来る辛さがまたなんともいえません。マスタードが入っているのですね。


「おつかれっす姐さん」


 冷たいお茶の入ったヤカンを持ちながら、ハシオさんが声をかけてきました。


 わたしはカップを差し出して、お茶を注いでもらいます。ちょうど、辛さを洗い流したかったところでした。


「ハシオさん。あれからどうですか?」


 モーリッツさんとの交際は順調のようですが、具体的な話は聞いていません。


「お互いに酒豪だというのは、わかったっす」


 サジーナさんの面倒をお役御免になった後、頻繁にデートを重ねているそうで。


「あと、お互い体力バカってこともっす」

「あらぁ」


 誰にも邪魔されたくないからと、帝国経営のホテルで一夜を共にしたそうですよ。


「朝からはじめて、昼から呑んで、再開して……気づいたら翌朝だったっす」

「あららぁまぁ」


 まあ、この辺は聞かなかったことにしましょう。シスター・ローラの範疇ですからね。


「ところで、ご両親の承諾とかは?」

「それなんすよねぇ。相手はそこそこお金持ちとはいえ、かたや商人なんで、騎士職との交際を許していいかどうか」


 ハシオさんは、一応貴族の家系です。結婚に関して、自由がききません。


 ご両親は賛成なのですが、親戚一同があまりいい顔をしていないそうで。


「面倒ですね。相思相愛なんですから、自由恋愛でかまわないと思うのですが」

「ウチの両親も、そう言ってくれてるっす。なので、その方向で行こうってなってるっすけど」


 ご親戚は、ハシオさんの幸せを願っています。が、家柄が許さない状態である、と。


「で、ですね。このフードテーマパークをなんとしても成功させて、モーリッツさんを貴族にしちまったらどうよ、って話になってるんすよ」

「なるほど」


 相手も貴族になってしまえば、少なくとも家柄の問題は解決します。


「いいかもしれませんが、モーリッツさん側の了解を得てからですね」

「そうっすね。一応、話し合いは進んでるっす。いい方向に話が転がったらいいんすけど」


 できれば、うまくいってほしいですね。二人は愛し合っていますから。


「ところで、このお茶おいしいですね」


 素朴な味なのに、実に罪深うまい。


「ほうじ茶っす。モーリッツさんとこの茶畑から作ったっすよ」


 これも、モーリッツさんの原産ですか。いや、おいしいわけですね。


「わたしの中で、モーリッツさんたちは一家揃って名誉貴族ですよ」

「オイラもっす」


 それにしても、ずいぶんややこしいことになっていました。


 わたしで協力できればいいのですが。


 まあ、今はお芝居です。


 ヒーローショーで、園児たちの護衛もありますからね。


 

 お稽古も順調に終わって、当日を迎えました!


 いよいよ、本番です!

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