フードテーマパークで、罪を堪能する

 みんなが演劇の練習をしている間に、わたしはテーマパークの下見をしましょう。



 ウル王女も同行します。


 リハーサルで、ちゃんと味の確認をしておかないと。本番でお腹が鳴ったら、一大事ですからね。


 パークと言っても、大層な遊園地を一から作ったわけではありません。跡取りがいなくなったリンゴ果樹園を買い取って、建物を増改築した程度です。そこまでお金をかけたわけではなく、王家の資金援助も受けていますよ。


 ポテチの作り方や、アイスクリームの作り方などが、展示されていました。これは、興味深い。


 これなら、アイスを家でも作れそうですね。教会にはお砂糖が少ないので、ムリかもですが。


 おお、インスタントラーメンの展示会がありますね。なるほど。カップサイズに固めて揚げて、乾燥させる手法は、と。これを、カップに入れてお湯を注げば、はい罪深うまい。


「あなた、食べに来ただけですね?」

「ええ。食べることは学ぶことですから」


 どんな料理でも、まずは食べてみないことには魅力を伝えられません。ああ罪深うまい。


 細かい製法は企業秘密ですが、要は味が良ければいいのです。


「たしかにおいしいですわ」


 王女も、おいしさに抗えないご様子。


「ちゃんと資料を見ていますの?」

「見てますよ。というか食べています」


 わたしの態度に、ウル王女は呆れ顔になりました。


 あとはほとんどが、テナントですね。屋台村と称したほうがいいでしょう。むしろ素晴らしい。わたしには、これくらいの方が楽しめますねぇ。


 焦げたソースの香りが、わたしの鼻を刺激しました。あっちですね。


「焼きそばがありますよ。食べましょう」


 貴族たちに混じって、わたしもソース焼きそばをいただきます。


 ああ、目の前で焼いてくれる焼きそばって、どうしてこうも罪の香りがするのでしょう?


「いただきます」


 ほふほふ……罪深うまい。


 塩焼きそばもいいですが、ソース焼きそばも捨てがたいです。お野菜がソースを吸って、噛むと香ばしさが口の中で弾けます。もやしってこんなに味わいが深かったか、と思い出させてくれました。ニンジンのしんなり具合もいいですね。いい瑞々しさです。


 野菜を捨てようとしていた他の貴族さんも、わたしのマネをして野菜を食べ始めました。そんなにおいしそうに見えたのでしょうか。焼きそばは、お野菜と食べるのが至高です。良い学びになりましたね。


 ああ、貴族さんが卵を落としてもらっていますよ。オムそばって手もありましたか。って、買っているのはウル王女じゃありませんか。


「麺を食べた後に、麺で追いかけますの?」

「あちらは汁ありのラーメン、こちらは汁なしの焼きそばです。ぜんぜん違う麺類ですよ」

「あなたの食欲には、ホント呆れますわ。ああおいしい」


 とかいいつつ、王女の手にも焼きそばがあります。しかも、卵で包んでありますよ。ちゃっかり視察しているのが、バレバレですね。


「あ、これが女傑の特集ですね」


 東洋からこちらの大陸にお寿司を持ち込んだ、女性航海士のお話です。おしょうゆも、この人が運んできたのですね。


 お寿司の歴史や、「時間を追うごとに劣化していく食材をどうやって遠くまで運ぶか」などの知恵などが、事細かに表示されています。


「あら、この方どこかで……?」


 壁に張られていたのは、バカでかい絵本です。挿絵の女性は、シスターのようですね。えらい身体の大きなシスターですね。浮浪者のような姿のエルフの子どもと一緒に、船に乗っています。


『あんた、名前は?』


 みすぼらしい格好の少女に向かって、シスターが語りかけているシーンですね。


 その少女はボソリ、『イネス・シアマ』と答えました。


「……え、イネスですって?」

「お知り合いですか?」

「イネス・シアマは、シスター・エンシェントの旧姓ですよ」


 すると、このシスターは……。


『あなたは?』

『クリス・ターンブル。わたしのことは、シスター・クリスって呼びな』


 やっぱり。一〇〇〇年前に存在したという、初代シスター・クリスでした。

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