焼きおにぎりは、罪の味

 ウル王女とフレンが、談笑しています。フレンも今まで何があったのか、うれしそうに話していました。


 献身の心を身に着けたフレンに、ウル王女は感激しているようです。


「よかったですね。また姉妹でお話ができて」

「仲違いしていたわけでは、ありませんから」


 ウル王女も、串焼きをフレンとシェアし合いながら食べていました。


「ありがとうございます、シスター・エマ」


 二人の間にあった壁を取り除けたのも、エマのおかげです。


「あたしは、何もしてないわ。フレンがお姉さんを見つけて、自分から行ったのよ」


 エマはのんきに、スペアリブを片手にワインを傾けていました。


 なるほど。貴族や王族に対する苦手意識を、フレンはとっくに克服していたのですね。


「エマは、何も知らなかったわけではないんですよね?」

「一応、事情はフレンから聞かされていたわ」


 お酒を飲む際、よく姉である王女の話をしてくれたそうでした。


「だから、あたしもビックリしたわよ。フレンの方が、『連れて行ってください』って言ってきたんだから」

「そうだったんですか」


 フレンを見くびっていたのは、どうやらわたしたちの方だったようです。フレンは自分で、勝手に成長していたのでした。わたしたちは、彼女の姿をちゃんと見ていなかったのです。


「あなたもどうぞ。このスペアリブ、最高に美味しいの。モーリッツさんの仕入れていた、お肉なんですって!」

「まあ。これは罪の上乗せになりそうな大きさですね」


 さっそく焼き上げました。じっくり育ててあげましょう。まあ、焼けていく音さえおいしそうです。音でライスが食べられますね。


 ハシオさんとモーリッツさんの仲を取り持つつもりが、王女姉妹との間まで修復できるとは。BBQは、絆を深める料理と言えるでしょう。


「よそ見していると、焦げるわよ」

「おっとっと」


 さて、いただきましょう。


「ううううう罪深うまい」


 お肉が、骨からすっと外れましたよ。口から垂れ下がるお肉を舌を駆使してお迎えするなんて、わたしですら予測できませんでした。はたから見れば、わたしは血に餓えた野獣に見えるでしょう。それでいいのです。人は誰でも、心にケモノを飼っているのですから。


 骨付き肉にかぶりつく、それだけで実に背徳的な行為です。でも、止まりません。たまりませんねぇ。実に、罪深うまさ満点の食べ方です。


 ライスはどこですか? もうお皿の上に乗っていた分は、食べきっちゃいましたよ。このままでは、ライスを求めるゾンビになりそうです。 


「さあさあ。焼きおにぎりだよ!」


 ソナエさんが、実に背徳感満載な料理を作っているではありませんか。おにぎりを、網の上で焼くなんて。おしょうゆの香ばしさが、遠くにいるわたしの鼻さえ刺激します。香りにつられて、スペアリブとともに参りましょう。


「やっぱり来たか、食いしん坊シスター」

「なんとでもどうぞ。そろそろハシオさんたちと交代してあげたかったところですから、今のうちにお腹に詰め込まないと」

「はいはい。ほら」

「いただきます。ホ熱チャア……」


 ホッカホカの焼きおにぎりを、ハフハフ言いながらいただきます。


「あらもう、罪深うまい!」


 おしょうゆがお米と合わさって、甘いですね。もっと、塩辛いと思っていました。が、さっきのスペアリブの旨味とドッキングして、ごちそうに変わります。


 さて、ハシオさんと交代しましょう。


「シスター、ありがとうっす。めっちゃ会話できたっす」

「いえいえ。これからは、もっとモーリッツさんとお話をしてください」


 ハシオさんは「はいっす」と言って、モーリッツさんと二人席で語らいます。


「いやあ、ほんとによかったですよ」


 わたしは今、どんな貴族よりも幸せですよ。幸せは口から入っていくのです。


 こんな素敵な一日になるなんて。


 あとは、遊園地で行う演劇の配役決めだけが待っていますね。


「シスター、大変なんです!」

「どうしました、フレン?」

「エンシェントからの指示で、私が劇の主役になりました!」


 わーお。

 

 

(BBQ編 完)

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