焼きトウモロコシは、絆の味

 フレンはかつて、お見合い相手の王族にひどいことをされています。


 そのときは、姉であるウル王女が助けました。


 しかし、彼女は王族や貴族に不信感を抱き、修道院の門をたたきます。


 ウル王女は、自分がいてはフレンが気を使ってしまうだろうと、あえて距離を取っていました。


「見てこれ! スペアリブよ! ヒイキにしているお店で譲ってもらったの! 重いからフレンにも手伝ってもらったわ!」


 エマがうれしそうに、ヘルトさんと話し込んでいます。


 フレンの過去を、エマは知りません。エマが、何も聞かないのです。事情があるのだろうとは思っていても。それが彼女のよさでもありました。エマを責めることはできません。


 まあ、幸いフレンはこちらに気づいていない様子です。


 どうしましょうかね。できるだけ鉢合わせないように。


 シスター・エンシェントに、相談をしに行きましょう。


「どうしました?」

「実は……」


 エンシェントもフレンの事情を知っているので、相談は楽でした。


「ふむ。それは、じっくり考えましょう」


 これは試練ですと、エンシェントはわたしに言います。


 わたしは自身が学びを得るより、フレンをどうすべきかを考えたいのですが。


「はーい。しすたー・えんしぇんと」


 園児の一人が、手を上げました。


「ジャガイモとトウモロコシは、お野菜に含まれますかー?」


 この園児は「野菜を摂りましょう」と、親からトウモロコシを食べるようにしつけられているとか。


「いい質問です。では、シスター・クリスに答えていただきましょうか」


 エンシェントが、わたしに話題を振ってきます。 


「それは……戦争が起きますね」


 たしかに、ジャガイモはお野菜と言えるでしょう。ナス科ですからね。


 しかし、トウモロコシは穀物です。土から育つとは言え。


「トウモロコシは、どちらかというと麦やお米に近いです。お野菜かと言われると。ですが、摂取する分には健康にいいかと思いますよ」

「わーい。ありがとー」


 よかった。


「シスター・クリス、よくできました。これは、ごほうびです」


 焼きトウモロコシを、エンシェントはわたしにくれます。


 手で持つとやや熱いですが、このままいただきましょう。


「ありがとうございます。いただきます」


 わたしは、焼きトウモロコシにかぶりつきました。こういうのは豪快にいくのがいいのです。


「んもっふ。罪深うまい!」


 ああ、最高です。トウモロコシとおしょう油が、口の中で弾けていますね。バターが染み込んでいるのもいいです。


「いかがですか?」

「ええもう、おいしいなら野菜だろうと穀物だろうと関係な……」


 わたしは、食べる手を止めました。トウモロコシを噛み締めながら、思考が駆け巡ります。


 そうですよ。王族である以前に、あの二人は姉妹で家族です。


 二人がどうして、距離を置かなければいけないのでしょう? あの二人が直接、仲違いをしているわけじゃないのに。


「では、もう答えは出ているではありませんか」


 悟りきったかのように、エンシェントは告げます。


「はい」


 変に気遣うより、寄り添って助け合えば。それでいいじゃないですか。


 どうしてこんな簡単なことに、今まで気づかなかったのでしょう。


 離れることだけが、優しさではありません。


「そう、ですね。けど」

「あとは、本人たち次第では?」


 かもしれません。


 外野がギャーギャー言っていても、仕方ないですね。


「わたし、行ってきます」

「いいから。食べ終わってからになさい」

「ふわい」


 わたしはトウモロコシをかじり、エンシェントはホタテを肴に酒をあおります。ソナエさんに注いでもらいながら。


「ごちそうさまでした。ありがとうございます」


 エンシェントはニコリと笑顔だけで返し、また園児相手に講義を始めます。


「フレン、ウル王……」


 ウル王女に、フレンがエマを紹介していました。


 ああもう。

 さすが家族ですね。

 とっくに、答えに行き着いていたではないですか。

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