ファミレスで喜ぶ騎士

 食後、ウル王女が経営する銭湯で、匂いを消すことにしました。


「あなたが決めますのね、クリスさん?」

「ハシオさんは、男性が喜ぶデートコースを知らないそうでして」

「普通、逆では!?」


 ウル王女が驚きます。


 どうなんでしょう?


 ハシオさん的には、「お見合いを頼んでいるのはこちらなので、こちらから誘うのが礼儀」とのお考えだとか。


「戦士ミュラーさんや魔術師のヘルトさんに、モーリッツさんの人となりを聞いてみるのは? あなたも含めて、元お仲間でしょう?」

「それは、済ませました」


 デートの話は伏せて、二人にはそれとなく聞いてみました。


 現在、モーリッツさんは女性を求めている感じではないそうです。


「そういう男性が相手なら、こちらから仕掛けるのは筋が通っています。てっきり、男性がエスコートするのが普通だと思っていましたので」

「わたしもそう思っていて、モーリッツさん本人に聞いてみることも考えたのです」


 ハシオさんは「もてなしたい」と。


「相手がそこまで言うなら、お任せしてみるのがいいですわね」

「ええ。とはいえ、わたしも食べるスポットくらいしか思いつかず」

「あなたらしいですわ。あなたから食を奪ったら、ただのシスターですからね」


 それは、わたしも自覚しています。


「わたくしは経営者と言っても、そこまでお料理に詳しいわけではありません」

「お食事どころといっても、わたしは庶民的な場所を好みます」


 お高いスポットなんて、オタカフェくらいですね。しかし、あの二人にそういった趣味はなく。


「難しいですわね。アウェーに連れて行っても仕方ありませんし」

「そこで、リッチな場所を知っていそうなあなたに相談をしてみたのですが」

「たしかに、高級料理店に連れて行くのは、特別感があっていいですわ。とはいえ、ハシオさんってそういう人でしたっけ?」

「どちらかというと、ファミレスで喜ぶ系女子ですね」


 騎士団の打ち上げも、ラーメン屋さんだそうですし。


「では、庶民派で通すってのはどうでしょう?」

「ありのままを見せろ、と?」

「普段の自分を披露して、相手が引いたら脈なしですわ」

「それは、お互いをよく知ってからのほうがいいのでは?」


 知り合って間もない方が相手だと、賭けですね。


「高級料理店一択でしょうかねえ?」

「そうなんでしょうけど、ただひとつ問題が」

「なんですの?」

「あの二人、飲むんですよ」

「あー」


 お酒の美味しいお店なんて、下戸な我々ではわかりません。


「で、あたしのところに来たと?」

「はい」


 お昼から出来上がっていたソナエさんに、相談を持ちかけます。


 ソナエさんが飲んでいるのは、大吟醸ですね。以前お見合いで揉めたお家から、送られてきたものです。


「話が広まって、騒動にならないと思ったのかい?」


 今のところ、身内にしか伝わっていません。


「相談に乗ってもらう体なので、そこまで広めてはいません」

「おせっかいなんて、あたしの柄じゃないんだけどな。まあいいや」


 ソナエさんが腕を組みます。


「メシがうまくて、飲める場所だろ? そんでもってデートに使うってありゃあ、個室付きだろうな」

「いいですね」

「その女史は、酔うと暴れるのかい?」

「まったく。どちらかというと、成人男性を介抱する側です」


 主に、国王を。


「めちゃ酒に強い、と。強い酒を出してくれるところがいいな。だったら、あそこなんてどうだ?」


 以前わたしと王女が入った、お寿司屋さんなどはどうか、となりました。


「ほう。お魚が大丈夫ならいけるかも!」


 その手がありましたね。


「あたしと前に入った定食屋もいいが、あそこは安いからな。寿司屋のほうが、雰囲気出るだろ。話してみな」

「ありがとうございます。助かりました」

 


 翌日、ハシオさんに聞いてみました。


「すいません。生魚はダメっす。昔アタったことがあって」


 あーっ……。


 そういえば、ハシオさんが生魚を食べる場面なんて、見たことありません。

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