硬めのプリンは、罪作り

 硬く焼いたプリンには、生クリームとさくらんぼが乗っています。さくらんぼには、シロップで味付けがされているようですね。


「さっそく、いただきましょう」


 さくらんぼは後で取っておくとして、やはり主役をパクっと。


「うーん! 罪深うまい!」


 トロトロの杏仁豆腐なら、食べたことがあります。あの濃厚な口当たりに対して、さっぱりした甘さがありました。


 こちらは、ほろ苦さを甘さが駆け抜けてきます。

 一見淡白そうなのに、卵とカラメルが合わさった瞬間最強になりました。

 そこへホイップクリームの援軍が駆けつけます。

 もう勝利せずしてなんというか。シンプルなのに、完成されていますね。


 そこへ、さくらんぼです。こちらが最も甘いと思いきや、プリンの甘ったるさをフルーツで中和するというバイプレイヤーだったとは。


 してやられました。デザートの奥深さを思い知っています。


「さくらんぼのタネは捨てるっす。毒っすから」


「はーい」と、サジーナさんは返しました。どうも、空返事ですね。よく見ると、向こうの席にいる家族連れを凝視しています。


 何事かと思いました。


 子どもが食べているものに、釘付けになっていたようですね。


 それにしても……。超弩級の甘味戦艦が、そこにいました。プリンの舟盛りなんて、始めてみましたよ。楕円状のお皿に、プリンとカットフルーツが。


「あのプリンは、なんですか?」


 山盛りのフルーツに、プリンが囲まれていますよ。あれの方が、生クリームビッシリですね。


「プリン・アラモードっす。フルーツで盛り付けているんすよ。といっても、ボリュームがあるんで」


 あっちのプリンは、やや小さめだそうです。


「オタカフェの方が、あっちより豪勢っすよ。もっとも、二人以上で注文できるサイズっすけど」


 なるほどぉ。


「本日は、こちらにいたしましょう」


 これはこれで、完成されています。


 お子様ランチのシメを飾るに、こちらサイズがちょうどいいのですよ。


 ごちそうさまでした。


 

「今日は、ありがとうっす。クリスの姐さん」

「いえいえ。楽しませていただきました」

「野菜を食えるようになったのは、マジでありがたかったっす。ずっと丸薬サプリに頼りきりで、減量しろって医者から文句を言われていたんすよ」


 そんなに、手のかかるお子さんだったんですか。


「いや、普段なら『もう一件!』、と行きたいっすが」


 ハシオさんが、おぶっているサジーナさんをチラッと見てほほえみました。


「今日はステイホームっすね。宅飲みっす」

「よろしければ、ご一緒しましょうか?」

「いいっすね。でも飲めないんすよね?」

「アテは大量に食べますので。おつまみに、チーズを買って帰りましょう」

「おお、いいっすねぇ」


 きっといい夢を見ていることでしょう。


 お屋敷にてサジーナさんを寝かせた後、ハシオさんが魔法で冷やしたビールでノドを潤しました。


「そういえば、サジーナさんのご両親は?」


 買ってきたカットチーズを、わたしはムシャムシャ食べます。


「まだ遠征先で、公務っす。今日はサジーナもお泊まりっすね」


 ハシオさんは、なんか含みのある物言いをしました。


 なにか、事情がおありの様子ですね。


「どうかなさいましたか?」

「実はオイラ、家族からプレッシャーをかけられてるんすよ。いつ嫁に行くんだって」

「それは、大変ですね」


 お見合い写真も大量に渡されているとか。


 ハシオさんには、ハシオさんのタイミングがありますでしょうに。


「子どもを預けて、家族の大切さを知ったら、気持ちも変わるんじゃないかって考えているんすよ」


 うーん。それとこれとは別な気がしますけど。


「こういうのは、めぐり合わせです。わたしではお力になれません」

「オイラも、そう考えていたんすけどね」


 ハシオさんが苦笑いしました。


「お見合いのリストにはないんすけど、この方が気になってるんすよ」


 一枚の写真を、ハシオさんが見せてくれます。



「なるほど。お力になりましょう」



 写真の人物は、モーリッツさんでした。




(お子様ランチ編 完)

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