丸薬《サプリメント》
午後はわたしも混ざって、バレーボールのトスを回し続けました。
一服ついでに、サジーナさんが聞いてきます。
「ねーねー、シスター。お野菜って摂らないとダメ?
「難しいお言葉を知っているのですねぇ」
わたしが返答すると、サジーナさんは丸薬を出しました。てっきり、駄菓子かと思いましたが。
丸薬とは、小さくて丸っこい、緑色の錠剤です。
野菜を粉末状にして、固めて乾燥させたものですね。飲むのではなく、噛んで食べるタイプです。
ウサギのエサであるペレットを参考にして、開発されました。
「数錠を三食後に服用するだけで、一日分の野菜成分を補える」という謳い文句で、評判です。
「サジーナさん。これは、冒険者が野菜不足を補うための補助食品です」
重い野菜を運んでは、旅なんてできません。
とはいえ、栄養が偏って生活習慣病で命を落とす冒険者たちが後を絶たなくなりました。
そこで、少しでも栄養を補おうと考えた冒険者ギルドは、野菜の成分を凝縮した丸薬を開発したのだとか。
わたしも、相当に追い詰められたときなどは活用します。
「なので、普段食べるものではありません」
「これだけで生活している人が、いると聞いたけど?」
どんな人なんでしょう? ダイエットでもあるまいし。
「それ、謎肉なども含まれているので、太りますよ」
「マジで?」
サジーナさんが、青ざめます。
「はい。一応、謎肉の成分は大豆なんですが、苦味を消すために鶏ガラスープなどの成分も入れていますからね」
「ひええ」
丸薬を見つめながら、サジーナさんは困惑していました。
利用をお考えだったようですね。
「いいですか、サジーナさん。偏った食事はダイエットの大敵です。食事制限をして多めに運動していけば、自然と身体は代謝が良くなっていきますよ。成長期でも同じことがいえます」
まあ、サジーナさんのお歳で丸薬に頼るのは、あまりよくありません。
大人になってもどうしても野菜を食べられないなら、やむを得ませんが。
コドモのうちは、いろいろ試していって得意と苦手を確かめるのがいいでしょう。
「こっちは?」
サジーナさんがメイドに用意させたのは、青汁です。ミルクに混ぜて飲むタイプなので、さして苦くはありません。子どもでも安心して飲めるでしょう。
「補助食品であることをお忘れなければ、大丈夫です。けど、お子さんのうちにそちらを飲む方が、エライですね」
「ホント?」
サジーナさんが目を輝かせます。
「大人でも、こんな苦いのは飲めませんよ」
お水で溶かすタイプは、正直わたしでも飲めません。健康にいいとはいえ、人間が飲むものではないと思えます。
「お野菜がどうというより、大切なのは噛む行為なのです。よく噛んで食べましょうといわれませんか?」
「いわれます。早食いは早死にするって、保母さんが」
どんな教育方針なのでしょう? 脅すタイプの方なんですね。
「丸のまま食べさせようとすると、苦手意識が強まります。おいしいと認識させる方が、いいですね。苦味を旨味と感じられるのは、大人になってからだそうですが、コドモのうちから慣れてもらうのがいいかと」
「わかったっす。たびたびありがとうっす、シスター姐さん」
夕飯の時間になりました。わたしはお暇しましょう。
「えー、シスターもう帰っちゃうの?」
サジーナさんが、わたしの服を引っ張ります。
「はい。これから用事が」
例のファミレスとやらを、調査しに行かねば。
「オイラたち、これからファミレスに行くんすよ。いい子にしてたらお子様ランチを食べさせる、って約束しちゃって。シスターもご一緒なら、お礼にご馳走しようと思っていたんですが」
なんですと?
「お供します」
「え。でも予定があるんすよね?」
「キャンセルします」
これは、ついていかない理由はありませんね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます