相談者はサムライ

「拙者、アカツキと申す。実は先日、こちらの近くに住む巫女の女性と、お見合いをしたのでござる」


 聞けば、相手の機嫌を損ねてしまったとのことです。


 どうやら、ソナエさんのお見合いの相手とは、アカツキさんのようですね。


 隣のソナエさんを、確認します。


 あー、怒っていますねぇ。


 わたしたちは暗がりにいるのですが、ソナエさんの青筋がくっきりと見えますよ。


 ソナエさんの腕を、ヒジで小突きます。

 態度で示すと、相手にも伝わっちゃいますよ。


 ダメですね、これは。話す気がない模様です。


 ソナエさんがここまで立腹している姿は、初めて見ました。


 よほど、腹にすえかねる物言いをされたのでしょう。


「何を話されたんですか?」

「他愛のない話です。どのような酒を好むか、あてはどれか。拙者は、トマトやチーズだけでも楽しめるというと、相手はたいそう喜んでくださいましたぞ。食事の好みも、ほぼ同じだったので、大丈夫だと思うていたのです」


 よかったじゃないですか。なにが不満だったのでしょう?


「発言に失礼があったか、心当たりはありますか?」

「無礼だったのは、両親です」


 初対面だというのに、お母様がやたらとソナエさんに小言を言ってきたとか。

 相手方の両親ができた人で、そのままことなきを得たと言います。

 お父様まで叱り飛ばしたくらいだとか。


「あなたご自身に、問題があったとのお考えは?」

「思い当たるフシが、何も。おそらく、それも怒らせた原因だったのでござろう。なんてことのない会話で、憤慨されたのでしょう」


 反省は、しているようですが。


 あー、もう。

 ソナエさんブチギレじゃないですか。


 これは、早く解決せねば。


「何を話したか、再現はできますか」



「毎朝、あなたの味噌汁が飲みたいと」



「……あー」




 これは、罪深つみぶかい。




 ダメですね。ダメダメです。これはギルティというしかありません。


 実に罪な発言ですよ、これは。


「おサムライさん。あなたは首をハネられても文句が言えません」

「そこまででござるか!?」

「あなたの中では、朝は眠いのにお味噌汁を作るのは、女性だけなのですね」


 まだわかっていないのか、アカツキさんは黙り込みます。


「あなたは、炊事などの家事を奥様一人に押し付けるおつもりで?」

「……っ!」


 アカツキさんが、ハッと息を呑みました。


 わたしの言わんとしていることが、ようやく飲み込めたようで。


「失念していた。これでは、母と同じではないか!」

「では、その旨をお伝えください。きっと、わかり合えるはずですから」



 シスター・エマと一緒に、お粥のお店で休憩をします。


 

「とにかく、指示に従えって注文が多いんだよ。武家だからかねえ」


 わたしは、とかくその「武家」なるワードがひっかかりました。


 どうもブケというのは、こちらでいう「騎士団」のような役職だそうで。


「ブケ、という家系は、そんなにめんどくさいの?」


 エマからの質問に、ソナエさんは「うんうん」とブンブン首を振ります。


「しきたりには、うるさいかな? 考え方が古いから」


 こちらも、騎士や貴族の中には柔軟な考えの人は少ないかも知れません。


「謎マナーが多いぜ。箸の持ち方から食べ方まで、指図してきやがる」


 めんどうな方みたいですね。


「ですが、お料理が上手じゃないですか。結婚のご意思自体はあるのでは?」

「あたしが食べたいから、料理が勝手にうまくなったんだ。伴侶なんて、考えたこともないさ」


 自分がおいしい晩酌を楽しみたいから、料理の腕を磨いたとのこと。


 なるほど、自分のためならいくらでもおいしいものを作るけど、他人のためとなると話は別だと。



 休憩を終えて、再度ザンゲ室へ。


 今度の方は、お歳をめしたおばあさまのようで。



「実は先日、息子の見合い相手にきつくあたりすぎてしまって」



 へ? 


 今度は、お見合い相手のお母様がいらっしゃったと?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る