罵倒の真意
なんと、さっき相談に来たアカツキさんのお母様が、お見えになりました。
いわば、ソナエさんの天敵です。
「実は、近く息子は姫の婿となり、宮仕えする予定だったのです」
「あらま」
小さな領主様の姫様が、息子さんをたいそう気に入ったそうで。
「なのに息子はなにを思ったか、急に西洋で店を持ちたいと言い出したのです」
どうも、めんどくさい血筋のようですね。
「理由を、お聞かせ願いますか?」
「なんでも、お姫様が気に食わないのだとか。姫様の方は、息子にぞっこんなのですが」
では、交際相手は別にいらっしゃるというわけですか。
「じゃあ、いいじゃありませんか」
「私も同意見です。私としては、姫様との縁談を進めたく思っているのです」
なるほど。
「が、あれは『自由恋愛のほうが幸せになるに違いない』、『単なる田舎侍、お山の大将で終わりたくない』と考えています。夫の方も『婿に出すのは、自立していないから恥』と思っているらしく」
聞けば聞くほど、面倒な家系です。
「あれには、自主性など皆無です。女を立てる性格ではありません。それなのに、自由恋愛にうつつを抜かすなど。あれの思考は、おとぎ話に出るようなハッピー脳です。嫁ぐお相手がカワイそうで。あれはヘタに自力での出世を考えず、屋敷に閉じ込めておくのが吉です」
お母様のほうが、アカツキさんの性格を熟知していました。
しかし、だんだんとわかってきましたよ。
「ですから、見合いを破断に持ち込めないかと、画策しておりました。お相手の方には、度々ご無礼を働きました。私だけ責めていただければよいのです」
お見合いでお母様がソナエさんにいい印象をもっていなかった理由はわかりました。
「おっしゃるとおりだと思います。好きな人と結婚するのは、あまりよろしくありません。価値観が違う方と結ばれても、結局は不幸が待っています」
「同感です」
「ただ、やりかたがまずかったようには思いますねぇ」
ソナエさんとの遺恨も、残してしまいました。
「はい。それなのです。見合いを破断にすることしか考えておらず、かえってあれを意固地にしただけでした」
だから、うちにザンゲしにきたのですね?
「息子さんの思考の変化に、心当たりはありますか?」
「とあるインフルエンサー系の書籍に、影響を受けてしまったようです」
……流されやすい性格の人が、店をドンと構えて成功するわけないですよねぇ。
自分で店を持つには、信念を貫く必要があります。
人の意見に振り回されていちいち考えをコロコロ変えるのでは、屋台骨をへし折りかねません。
「どう思いますか?」
そばにいるソナエさんに、小声で意見を伺います。
「別に、どうもしねえよ。あたしにとっては、どうでもいい話だ」
やはり、協力していただけません。不快感をあらわにしています。
「そこをなんとか。あなたの意見次第で、彼女は助かります」
ソナエさんに冷たく当たったのは、事情があったからでした。この際、割り切って話し合えないものでしょうか。
「……あたしが親なら、あえて失敗させるかなぁ」
「まず現実を見せるということでしょうか?」
「そんなところだな。その息子は、親どころか世間を舐め腐っている。そんなやつは、外野が何を言っても耳を貸さない。自分で気づくしかないんだよ」
やけに、ソナエさんは哲学的ですね。
「ほっといてやりな。答えは、自分で見つけさせるんだ。親が提示してやるもんじゃないよ」
「わかりました。ありがとうございます」
相手がソナエさんとも知らずに、お母様はお礼を言って去っていきました。
仕事が終わり、ソナエさんは「お腹がすいた」と言い出します。
派手に出歩くのは気がひけるのですが。
街をブラついていると、着物姿の女性がゲタをコロコロ言わせながら近づいてきました。
「ねえ、おいしい東洋風のお店、知らない?」
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