シスター・ソナエ

 翌日、ソナエさんはウル王女の馬車でわたしの教会まで来ました。


「初めて着たが、どうだ? 様になってるか?」


 シスターの法衣を着たソナエさんが、くるりと回ります。


「あたしの替えがあってよかったわね」


 この衣装は、シスター・エマの予備衣装でした。エマクラスでないと、お胸が、ねぇ。


「どうしたの、ソナエ? ウチに鞍替えしたの?」


 エマが早速、詮索しに来ました。


「話せば長くなるのですが」

「まあ、一時預かり、ってこった」


 ソナエさんが、ざっくりと解説します。


「この間、クリスがウチへ遊びに来たとき、雪で帰れなくなったときがあったろ? そのときに、巫女業務を手伝ってもらったんだ。そのお礼さ」


 うまく、話を絡めてくれました。これなら、信用してもらえるでしょう。


「とりあえず、何をしてもらえばいい?」

懺悔ザンゲ室でも、やってもらいましょうか」


 ひとまず、懺悔室で質疑応答を。


「わたしも一緒に入りますから、あなたは質問に答えてあげてくださいね」

「はいはーい、悩める子羊よ、らっしゃいなー」


 懺悔室の風通し穴から、ソナエさんが相談者に呼びかけます。


「マジメにやってください」


 八百屋さんの呼び込みじゃないんですから。


「失礼します」


 さっそく、一人目が来ましたよ。


「お悩みを言え。どんな悩みも一つだけ解決してやろうじゃん」

「……なんだか、雰囲気が変わりましたね?」


 相談者さん、気がついてしまったのでしょうか?


「なんだっていいじゃんか。ささ、お悩みを聞かせな」



「実は、ダイエットに失敗しまして」



 また、この人ですか。よりにもよって。



「走るルートを変えてみたんですが、少し前にできた東洋風の食堂がおいしくておいしくて」

「わかる。東洋のメシって、たまに食うとうまいんだよなぁ」

「ですよね? 酒に合うんですよ!」


 この人は、おうちで減量したほうがよくないですか?


「あんたに罪はないよ」


 あっさりと、ソナエさんは告げました。


「やはり、いつもの方と違いますね。と、いいますと?」

「走っているときに、煩悩が湧き上がるんだろ? だったら、自分で作ればいいんだよ」


 自炊できるようになれば、健康チェックなど自分でも可能になり、腹もちょうどよく満たせると、ソナエさんは説明しました。


「なるほど」

「これ、味噌汁のレシピな。時短で作れるから簡単だぜ。具材もネギだけだ」

「具がネギしかない!」

「これで完璧なんだよ。『根深汁』って言ってな、二日酔いの朝はダンゼンこれだ。ただし、ネギは煮すぎるなよ。苦くなるからな」


 相談者は「ほへー」と声を漏らしながら、感心しているようでした。


「ありがとうございました」

「いえいえ。またなー」


 その後も、ソナエさんは次の相談者をさばきます。



「旦那が家事を手伝わない、か。あんたも、稼ぎを渡さなかったらいい。あとは、話し合いだな。ただし、こっちは上でも下でもないと主張しろ。対等に語り合うんだ。下手に出ないこと。相手はあんたを、召使いと思っているフシがあるからな」



 ソナエさんのアドバイスは大胆でした。

 それでいて、的確です。

 一般論ではなく、相手の環境まで考えての助言を伝えていました。



「告白かー。別にしなくていいじゃん。相手はあんたとスキンシップを取っているんだ。あんたもイヤだと思っていないんなら、そのまま流れで持っていけばいい。告白するってのは、相手に選択権を与えてしまうことになる。今大切なのは、付き合っているという契約より、現状だ」



 時々、型破りな意見が飛び出してくるので、油断できません。


 聞いているこちらのほうが、ドキドキしてしまいましたよ。


「はいはい次の人ー」



「……御免」


 やけに古風な男性の声がしました。


「お悩みをどうぞー」


 かたや、ソナエさんはいつもどおりリラックスしています。


「婚約者に、逃げられたでござる」


 ござる、ですか……。

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