東洋風の朝食は、罪の味

 翌日、ウル王女のお屋敷に。


 ウル王女は、ライスとお味噌汁、卵焼きの朝食を取っていました。


 割烹着姿のソナエさんが、王女にうやうやしくライスをよそっています。


「ごきげんよう。こういった朝食も、おいしいですわね」


 お箸を器用に扱いつつ、王女はお味噌汁をズズズと音を立てます。

 この人、本当に西洋人なのでしょうか?


「いつもスープは音を立てるなと怒られますが、このミソスープなる料理は音を立てて召し上がったほうが趣がありますわ」


 卵焼きを食べつつ、王女はまたズズウ、と。


 召使いの方が、困惑していらっしゃいます。


「本来ならソナエさんは客人なのですが、お礼がしたいと」


 王女が、お茶をすすりました。


「あたしが食べたいのが、半分かな。夕飯は、あんたらの食事をいただいたから」


 桶に入ったゴハンを、ソナエさんはしゃもじで切ります。


「お見事ですね」

「世話になったからな」


 ソナエさんは、味噌汁のおかわりをお椀に入れました。


「ホントは納豆もあれば最高だったんだが、匂いが充満してしまうからな」

「ぜひ、食べてみたいですわ」


 納豆という未知の食べ物に、王女は興味を示します。


「オススメはしないぜ」


 ソナエさんは、王女にライスのおかわりを渡しました。


「わたしも、いただけますか?」


 朝食は食べてきましたが、毎朝満足できてません。


「メシは、マンガ盛りでいいか?」

「ぜひ」


 マンガ盛りのお茶碗は、朝の活力ですよ。


 ホカホカの卵焼きを作り、ソナエさんはわたしの席に置きます。


「いただきます」


 まずは、お味噌汁から。


「あああ、罪深うまい」


 塩加減が絶妙ですね。朝にぴったりです。脳を起こすのに、ちょうどよい塩梅ではないでしょうか。ライスも進みます。


 このライスがまた、罪深うまい。ふっくらしていて、甘みがあります。


「これは、どこか有名なコメドコロでしょうか?」

「いや。屋敷に備蓄してあった、市販のものだ。王女のお口に合うか、わからんかったが」


 これだけおいしいなら、変わった食べ方もしたいですね。


「度々注文して申し訳ないんですが、ライスボールにしたいただくわけには……」

「おにぎりかい? はいよ」


 わたしは、おかわりにおにぎりをもらうことにしました。


 ウル王女が「わたくしも」と、手をあげます。


「はいはい。待ってな」


 二人分のおにぎりを、ソナエさんはにぎりました。


 王女の召使いさんたちが手伝おうとしましたが、ソナエさんは一人でやると言います。

「お世話になっているから」と。

 召使いさんの分まで作っていました。


 その間に卵焼きも、と。


 ほほう。これは罪深うまい。


 スクランブルエッグやオムレツとは、また違う味がしますね。ダシと……おしょうゆですかね?


「東洋の卵焼きは、甘いとも聞きましたが?」

「ウチはしょっぱいんだ。それでも相手方から、文句を言われた」

「相手方とは、例の?」

「そう。お見合いの相手。そのおふくろさん。本人は、別にかまわないって言ってくれたけどな」


 ソナエさんから、おにぎりをもらいます。


「ぜいたくですねえ」

「あたしもいただこうかな」と、ソナエさんもエプロンを取って着席します。


 おにぎりをパクつきます。

 やはり大正解でした。罪深うまい。

 塩むすびなのに、どうしてこんなにおいしいのでしょう?

 

 我々はライスボールを作って差し出すときは、中にツナマヨを入れるか汁物を添えるかで味を加えます。

 ですが、この塩味おにぎりは、これだけで完成形でした。


 朝食って、こういうのでいいんですよ。


「朝に塩むすびだけとか、向こうの家だと勘当もんだろうな」


 ソナエさんは、片手でおにぎりを食べています。


「ひどいです」

「さて、どうするかな。いつまでも、ここで世話になるわけにはいかんし。ここだと飲み相手もいない」


 飲み相手……ああ、ちょうどいい人がいますね。


「うちに身を隠しますか?」

「巫女のあたしが、教会へ?」

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