毎日おみそ汁を作らない妻は、罪な女ですか? ~大衆食堂の味噌汁~

結婚相手の条件

 オタカフェにて、着物姿のソナエさんがパフェをバクバク食べています。よほど、腹に据えかねているのでしょう。


「あー、ムカツクよぉ」


 お化粧からも、憤慨がにじみ出ています。


「まあまあ、ここは紳士淑女の社交場ですわ。落ち着きなさいな」

「これが落ち着いていられるかってんだ。ふざけやがってよぉ」


 ウル王女がたしなめますが、ソナエの怒りは収まりません。


 ストロベリーのパフェが、ものの数分でなくなりました。 


「率直に申し上げて、あなたが一番、色恋から遠い存在だと思っていました」

「んなこたぁ、あたしが一番わかってるんだよ」


 ソナエさんが、ワインを頼みます。


 我々も、ドリンクのおかわりしましょうかね。

 お話も長くなりそうですから。


「何があったか、ご説明願えますか?」


 わたしは、お話を促します。

 こういうのは、吐き出してしまったほうが落ち着くでしょうし。


「ウチの家族と相手方の家族で、見合いしたんだよ。あそこにホテルがあるだろ? そこでさ」


 窓の向こうに見える一番大きな建物の中で、話し合いがあったそうです。


 お相手は、武家の方だそうです。東洋に広大な土地もあり、裕福なんだとか。


「相当、頭にくる方だったのでしょうか?」

「見合い相手は、別に悪くなかったんだよ」


 グラスを弄びながら、ソナエさんは当時を語ります。


 その男性は、ソナエさんの性格をよく把握している人でした。お酒も弾んだそうです。


「うわあ、いい感じじゃないですか」 

「ところが、相手方の家族がなぁ」


 いわゆる「いかにも」な東洋気質な人で、しきたりにうるさいのだとか。


「なるほど。俗に言う、嫁姑戦争ですわね!」

「あたしが、そんなことに巻き込まれるとはねえ」


 とにかく注文が多く、面倒くさい相手だったそうな。


「おうちと結婚するわけじゃないんだから、いいじゃないですか」


 お母様も行っていましたが、今は自由恋愛が普通でしょう。


「だったらよかったんだ。なのにあいつら、最悪の条件を突きつけてきやがった」

「なんですか?」

「この国を出て、田舎に帰れってさ!」


 やたら大声で、ソナエさんはパンケーキにフォークを突き刺します。はあ、と大げさにため息をつきました。


「それは、困りましたわね」

「この街を守ることも、あなたの仕事ですからね」


 ウル王女とわたしが、うなずいて返答します。


「だから、お断りした。跡継ぎが欲しいだけなんだから、あれでいいだろ。よそを当たれって、言ってやったのさ」


 それで、お話が終わるはずでした。ところが……。


「見合い相手が、追っかけてきてさぁ。困ったもんだよ」


 ワイングラスを傾けます。もう一杯もらうかどうか、悩んでいました。あまり酔うと、逃亡に支障が出そうですもんね。


 窓を覗き込むと、青い袴姿のサムライさんが店の入り口まで来ていました。


「やべ、もう行く!」


 グラスをゴンとテーブルに置いて、ソナエさんは立ち上がります。


「お供しますわ。馬車にお乗りなさいな」


 お勘定を置いて、ウル王女も立ちました。


「あんたも来なよ」

「わたしは、彼を足止めしておきましょう」


 三人ともいなくなると、かえってお相手に怪しまれます。

 相手さんの様子も、気になりますし。


「屋敷に匿いますわ。打ち合わせなさいます?」

「いいえ」


 合流はしたいですが、尾行される危険性もあります。

 ここは、日を改めたほうがいいでしょう。


「助かる。ちょいとゴメンよ!」


 ソナエさんとウル王女が、厨房の方へ向かい走っていきました。


「口裏を合わせてくれ」


 入れ違いで、サムライさんが店に入ってきます。


「失礼。ここに、赤い着物の女性が来ませんでしたか?」


 全員が、首を横に振りました。


 わたしもです。


 その男性は、長い髪をポニーテール気味にした優男風の男性でした。

 たしかに、女性のことにとやかく言ってこなさそうな方ですね。


 サムライの男性は、あきらめて帰っていきました。


 あとは、慎重に帰るだけですね。

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